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第11回 高周波出力に対応した水晶発振器を解説水晶デバイス基礎講座(1/5 ページ)

今回は、特定の用途に向けて仕様を最適化した水晶タイミングデバイスのうち、通信機器やネットワーク機器を対象にした品種を紹介します。

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「水晶デバイス基礎講座」一覧

 本連載ではこれまで、水晶材料の特徴や、水晶材料を使ったタイミングデバイスの動作を詳しく解説してきました。水晶材料を使ったタイミングデバイスには、特定の用途に向けて仕様を最適化した種類が幾つかあります。今回はそのうちの1つ、高周波発振に対応した水晶発振器を取り上げます。

 近年、映像配信の普及に伴ってインターネットのバックボーンを流れるトラフィック量が急伸し、通信の高速/大容量化が進んでいます(関連記事モバイルインターネットが急拡大、帯域幅の危機に半導体業界が挑む)。現在、イーサネットのバックボーンには、伝送速度が10Gビット/秒の仕様が広く採用されています。トラフィックの増大を後押しに、今後、伝送速度は40Gビット/秒へ、さらには100Gビット/秒へと高速化していく見通しです。

 インターネットのトラフィック量は、爆発的に増え続けている状況ですので、バックボーンのインフラを構築するベンダーは、常にトラフックの増加への対策を打ち続ける必要があります。次世代イーサネットに代表される通信インフラには、例えば600〜700MHzと高周波の基準信号源が必要な機器もあります。一般的な水晶発振器はこのような高い周波数の基準信号源を作り出すことができません。しかし、このような高周波発振を可能にした水晶発振器が製品化されています。

 まず、高周波対応の水晶発振器の特性を評価する際の重要な指標を紹介し、次に高周波の基準信号を生み出す手法を解説しましょう。

通信機器に重要な指標「ジッタ」

 次世代イーサネットに必要な基準信号源(水晶発振器)は、出力信号波形が安定していることが強く求められます。出力信号波形の安定性を評価する指標の1つに、ジッタと呼ぶ指標があります。英単語の「ジッタ(jitter)」は、神経質、不安感、イライラする、イライラさせるといった意味を持ちます。高周波の水晶発振器の安定度を表すときには、デジタル信号を伝送するときに波形に生じる時間軸のずれや揺らぎを指します(図1)。

図
図1 基準信号源(水晶発振器)の出力波形を評価する指標「ジッタ」の概念図

 デジタル信号の波形をオシロスコープで見ると、単一の周期で発振しているはずの波形の輝線が太く幅を持っていることがあります。この幅の広がりがジッタです。図1は、1周期の単位で波形を見たときに、数種類の周期を持つ信号が見えてしまうことを図示しています。理想波形が単一の周期で繰り返されているのに対して、実際の波形は部分的にタイミングが早く変化したり、遅く変化したりします。

 ジッタは、電気信号の読み取りデバイスのわずかな不安定さや信号の伝送経路の悪影響などが原因で発生します。ジッタがあまりにも大きいと、信号が隣接する信号と干渉し、映像や音楽を伝送する信号の場合には、画質や音質の劣化を引き起こしてしまいます。

 先に述べたように、ジッタはデジタル信号の時間軸でのタイミングの揺らぎを示しますが、ジッタの種類は1つではありません。ジッタは時間とともに細かく変動し、時間に対する変動パターンもさまざまですので、ジッタを1つの数値だけで評価することは難しいのです。

 ジッタにはどのような種類があるのか、幾つか例を挙げましょう。1周期長のばらつきの幅(最大と最小の差)を示す「Period Jitter(Peak to Peak)」や、ばらつきの程度である標準偏差を表した「RMS Jitter」があります。これだけではなく、自然誘発的に起こる予測不可能なジッタである「Random Jitter」や、回路、電磁誘導、外部環境等から誘発される「Deterministic Jitter」、連続したクロックの各周期目のばらつきである、「Accumulated Jitter(Long Term Jitter)」などさまざまな種類のジッタがあります。

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