電源としても機能する“賢い布地”実現へ、米国で研究が進む:材料技術 エネルギーハーベスティング
さまざまな情報をセンサーで取得し、そのデータを記録して、外部に通信する。そうした“賢い”機能を衣服に統合する取り組みが注目を集めている。ただしそれらの機能を実現する電子回路には、電源が不可欠だ。ならば、布地に電源の機能を持たせられないか――。そんな研究が米国で進んでいる。
センシングやデータストレージ、通信などの機能を組み込んだ“賢い布地”。欧米ではスマートファブリックやスマートテキスタイルなどと呼ばれ、ヘルスケアから軍事、宇宙探索に至るまで、さまざまな応用分野での活用を視野に入れて研究が進んでいる。ただ、これらの賢い機能を実現する電子回路には、電源が不可欠だ。スマートファブリックを衣服に適用するには、その電源の確保が課題になる。旧来の電池は、身に着けるには大き過ぎるからだ。従って、衣服に組み込んだり融合させたりできるような電源の登場が強く望まれている。
こうした背景から、米国のフィラデルフィアにあるDrexel Universityで材料工学科の教授を務めるYury Gogotsi氏の研究チームは、柔らかく軽い上に、電源としても機能する布地の実現につながる技術を開発した。
これまでも、衣服に組み込んで身に着けられる蓄電素子を実現しようとする取り組みはあった。ただしそれらは、通常は衣服に使わない不織布や、炭素(カーボン)材料のナノチューブやナノワイヤーといった、高価な活性物質を利用するものだった。
これに対しGogotsi氏の研究チームは、綿織物やポリエステルといった日常衣料用の材料を使う。これらの材料に、多孔性の炭素粉(カーボンパウダー)を充満させるという方法だ(図1)。織物や編み物は、1本1本の繊維や糸の間に空間がある。それらの空間に入り込んだカーボンパウダーが、イオンの移動を担う仕組みだ。研究チームによれば、従来の技術に比べて高い質量負荷と静電容量値を達成できたという。この手法を適用すれば、スクリーン印刷やインクジェット印刷、浸し塗りのような一般的な技術を使って、織物の電極を大きな面積に作製することが可能だと説明する。特殊なプロセスを導入するコストも不要だという。
図1 日常衣料の材料でスマートファブリックを実現 織物(Woven Fabric)を構成する1本1本の繊維(Fiber)や糸(Yarn)の間の空間にカーボンパウダーを充満させる。このカーボンパウダーがイオンの移動を担うことで、繊維基質に導電性を持たせる仕組みだ。出典:Smart Garment People
研究チームを率いるGogotsi氏は、「今回の成果は、これまでに論文発表されていた成果に比べて、単位面積当たりに蓄積できるエネルギーの量を400〜700倍に高められる。しかも、柔らかく、折り曲げることが可能で、毒性も無い。織物や衣類に適用できる可能性が高く、この分野の研究に大きな進展をもたらすものだ」と語っている。
米国のNorth Carolina State Universityに所属する繊維工学の専門家であるTushar Ghosh氏は、この成果について、「比較的シンプルな手法で繊維基質に導電性を持たせることができ、広範なインパクトがある」と指摘する。「この研究は、エネルギーのハーベスティング(生成)とストレージ(蓄積)が可能な未来の織物を実現するための知識体系に貢献するものだ」(同氏)。最終的な製品を実現するにはさらなる研究が必要だが、この技術がさまざまな分野のスマートファブリックデバイスに応用されることに期待がかかる。
【翻訳/編集:EE Times Japan】
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