第34回 温度変化の“相殺”でBand Gap Referenceの特性改善:Analog ABC(アナログ技術基礎講座)(2/2 ページ)
第34回は、2つダイオードの端子電圧の差をうまく使うことで、電源電圧の変動に影響を受けない基準電圧を生み出せることを説明しました。今回は、温度変化による電圧変化を相殺するBGRを設計しましょう。
電圧制御電流源をオペアンプで置き換え
さらにBGR回路を具体化するために、図1の電圧制御電流源G1を実際の回路に置き換えましょう。前回説明した通り、図1のVaとVbを比較する必要があるので、置き換える回路の入力段は差動対にする必要があります。また、入力電圧が約0.8V付近(GNDよりダイオードの順方向電圧Vfだけ上がった電圧)とGNDに近いため、p型MOSFETを使った入力段が適切です。
電圧制御電流源G1の入力Vaは、ダイオードD0がGNDとの間に入っているだけなので、ダイオードの順方向電圧の約0.8VだけGNDから高い電圧になります。さらに、GNDまでにきちんと動作させるためには、p型を入力段にする方が有利なのでp型MOSFETを入力段に使います。その理由は、n型が入力段だと差動対の下の電流源が動作する電圧範囲を確保できなくなるためです。(本連載の「第32回 MOSFETのオペアンプを改善〜裏返し回路で入出力特性向上〜」を参照してください)。
図4 図1の電圧制御電流源G1を実際の回路に置き換え 本連載の第29〜32回に掛けて設計してきたオペアンプが役に立ちます。第32回に紹介したオペアンプに、赤色の枠で囲んだ部分の改良を施して使いました。
これまで本連載で長い期間かけて、MOSFETの基本回路にさまざまな回路を付加して作り上げてきたオペアンプがうまく使えそうです。MOSFETを使ったオペアンプ設計の最終回である第32回で使ったオペアンプに少し変更を加え、BGR回路に電流を十分供給するために、出力段をpチャネルの吐き出し型に変更しました(図4)。また、このオペアンプを負帰還回路で使うので、ループを安定させるために位相補償用コンデンサC1と抵抗R3を追加しました。図5は、図1の電圧制御電流源G1を図4のオペアンプで置き換えた回路です。図5のように、オペアンプをBGR回路に接続し、VaとVbが等しくなるように負帰還を掛けることで、基準電圧VBGRを得られます。
図5の特性を早速、確認してみましょう(図6)。図3で確認した通り、RBGR=100Ω、Rc/RBGR=7.5と設定しているので、VBGRの温度傾斜はほとんどありません。温度を−40〜85℃と変えたときにもVBGRの青い色のラインは真っすぐ1本になっていることが分かります。もちろん、電源電圧VDDの変化に対しても、影響を受けていません。
これでBGR回路は完成……と言いたいのですが、実際の回路ではさらに工夫が必要です。例えば、BGR電圧の応答速度や、トランジスタの相対バラツキなどを考慮した工夫などです。続きは次回に紹介することとさせていただきますが、アナログ回路は難しさも面白さもあり、深みにはまるとなかなか抜け出せなくなるので、ご注意を!
Profile
美齊津摂夫(みさいず せつお)
1986年に大手の通信系ハードウエア開発会社に入社し、光通信向けモジュールの開発に携わる。2004年に、ディー・クルー・テクノロジーズに入社。現在は、同社の常務取締役CTO(最高技術責任者)兼プラットフォーム開発統括部長を務めている。「大学では電気工学科に所属していたのですが、学生のときにはアナログ回路の勉強を避けていました。ですから、トランジスタや電界効果トランジスタ(FET)を使ったアナログ回路の世界には、社会人になってから出会ったといっていいと思います。なぜかアナログ回路の魅力に取りつかれ、23年目になりました」。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.