「数年前の不可能が今現実に」、周波数精度±0.1ppmのMEMS発振器が量産へ:電子部品 タイミングデバイス
MEMSタイミングデバイスを手掛けるSiTimeは、恒温槽付水晶発振器(OCXO)の置き換えを狙ったMEMS発振器を発表した。シリコン(Si)材料を使って、OCXOに相当する品種を実用化するのは難しいという一般的な認識を覆した製品だ。温度を一定に保つ恒温槽は使わない。
MEMSタイミングデバイスを手掛ける米国のSiTime(サイタイム)は、恒温槽付水晶発振器(OCXO)に相当する周波数精度を実現したMEMS発振器「SiT503Xファミリー」を発表した。IEEE(米国電気電子学会)で規定された「Telcordia GR-1244 Stratum 3」と呼ぶ仕様に対応しており、0〜70℃の温度変化に対する周波数精度は±0.1ppm、24時間で周波数がずれる最大値(24時間ホールドオーバー安定性)は±0.37ppm以下、20年間の総合周波数安定度は±4.6ppm以下だと主張する。
温度を一定に保つ恒温槽(オーブン)を使わないため、消費電力は既存のOCXOの1/10と小さく、パッケージ寸法も最小で2520サイズ(2.5×2.0mm)である。「周波数精度が±0.1ppmのタイミングとして業界最小だ」(SiTimeのCEOを務めるRajesh Vashist氏)という。限定顧客へのサンプル提供は既に始めており、2011年12月には量産出荷を開始する予定である。同月には、広くサンプル品の提供を始める。
一般に、電子機器の基準信号を生成する水晶タイミングデバイス(発振器)は周波数精度や機能に応じて、一般水晶発振器(SPXO)や、電圧制御型水晶発振器(VCXO)、温度補償型水晶発振器(TCXO)、OCXOに分けられる。このうち、OCXOの周波数精度が最も高く±0.1ppm以下である。
MEMS発振器の材料であるシリコン(Si)の物性は、現在タイミングデバイスとして広く使われている水晶デバイスの物性に比べると、温度特性や共振の鋭さ(Q値)といった観点で劣る(関連記事:水晶を発振器に使う5つの理由)。このため、OCXOに相当する精度のMEMS発振器を実用化するのは現実的ではないというのが、数年前までの一般的な認識だった。今回のSiTimeの品種は、この常識を覆した点でインパクトがある。発振子の基本共振周波数を従来の5MHzから48MHzに高めるとともに、発振回路やPLL回路の刷新、温度センサーの高精度化といった幾つかの要素の改善を積み重ねることで実現したという。
「±0.1ppmという周波数精度は研究論文のデータではない、実製品のデータだ。サンプルを入手して特性を評価してほしい」(SiTime)。同社によれば、MEMS発振器は水晶発振器に比べて出力周波数の範囲や耐久性、半導体部品との親和性、価格競争力といった観点で優れているという。
SiT503Xファミリーは、出力周波数範囲が1〜60MHzの「SiT5301」と、60〜220MHzの「SiT5302」の2品種で構成する。いずれも、12kHz〜20MHzのオフセット範囲で積算した位相ジッタのrms値は500fs(フェムト秒)。出力周波数の電圧制御機能を備えており、可変範囲は最大±12.5ppmである。
同社はかねてより、OCXOに相当する周波数精度を実現したMEMS発振器を製品化すると説明しており、今回正式にサンプル出荷と量産開始の時期を明かにした(関連記事その1、関連記事その2)。
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