スマート革命に備えよ、データが新たな“通貨”に:組み込み技術(2/2 ページ)
センサーが収集するデータをリアルタイムに解析し、価値のある情報を自動的に抽出する。そんな機能を備えた「スマートシステム」が新たな世代を築きつつある。その新世代では、データが通貨の役割を担う。データセンターの解析エンジンと組み込みコンピュータを連携させ、新たな金脈を掘り起す取り組みが始まった。
HPも事業機会を見出す
一方でHPは、スマートシステムの事業化を目指してビジネスモデルの変革を進めている。同社のスマートシステムは、無線センサーネットワークを利用して、クラウドベースのサーバにデータを集約する。そのサーバでは、流れ込むリアルタイムデータの巨大なストリームを解析し、公衆電力網の停電や個人ユーザーの心臓発作に至るまで、あらゆる事象を予測できるという。
HPのシニアフェローであるStanley Williams氏は、「われわれはIBMを摸倣しようとしているわけではない。しかし当社も、IBMが注視しているのと同じ種類の事業機会を見出しつつあるのは確かだ」と述べる。「解析は、1と0のデータを何か意味のあるものに変える技術であり、金脈である。解析によって、人々が状況に素早く反応したり、望ましくない結果を避けたりするための知識と認知を生み出せるのだ」(同氏)。
HPは、第1世代のスマートシステムを構築するに当たって、狙う分野をわずか2つにまで絞り込んだ。それはエネルギーとヘルスケアである。これらの2つの分野に向けて同社は、センサーチップから、クラウド上で稼働する解析ソフトウェアに至るまで、システムの構成要素をゼロから作り上げている(図3)。
図3 HPのワイヤレスセンサーノード 自社で製造した地震センシング専用のMEMS加速度計を搭載する。また、このセンサーで取得したデータを解析エンジンが稼働するサーバに対して送り出すワイヤレス通信機能も備えている。出典:HP
「スマートシステムを構築するには、情報技術のあらゆる要素が必要であり、大きな労力が求められる。当社は、第1世代の垂直統合プラットフォームで対象とする分野を、戦略的に2つに絞り込んだ」とWilliams氏は述べている。「当社は最低でも2つの分野に参入したいと考えていた。2つを比較して異なるアプリケーションを対比させることで、共通して求められることや、それぞれ異なるべきことを見極められるようにするためだ。そして、これら2つの分野で知見を固めたら、他の市場分野への参入も検討していく」(同氏)。
HPは、顧客企業と共同でスマートシステムの具体的なアプリケーションの試作を進めているところだ。例えば、Shell Oilとは、地震発生帯イメージングを実行できるスマートなワイヤレスセンサーネットワークを構築する契約を結んでいる。何千個ものHPの地震センサーから、同社のサーバに流れ込むデータストリームを、そのサーバ上で稼働する解析エンジンで処理することで、「どこを掘るべきか?」という実利的な情報に変えて出力するシステムである。
このプロジェクトでHPは、地震センシングに向けた専用のMEMS加速度計の他、そのセンサーのデータをサーバに対して送り出すワイヤレスセンサーノードも自社で製造している。
「ローカル」を目指すIntel
Intelは、組み込み機器のプロセッサ上で「ローカル」に解析を実行するスマートシステムを提唱している。同社にとっては、旧来の組み込みビジネスからの正常な進化といえるだろう。組み込み機器からデータストリームをクラウドにアップロードする代わりに、機器に内蔵したIntelのX86プロセッサやAtomプロセッサの上で解析を実行できるようなソフトウェアの開発に注力する。
Intelで組み込み通信グループのバイスプレジデント兼ジェネラルマネジャーを務めるTon Steenman氏は、「センサーがどんどん普及するに従って、組み込みシステムから生み出されるデータの規模が拡大し始めている。現在のところ、その巨大なデータはそのままクラウドに流れ込んでいる状況だ」と話す。「当社は、全てがクラウドに移行すべきだという考え方は妥当ではないとみている。実際に当社は、あらゆる問題のリアルタイム解析は組み込みプロセッサ上で実行できるとアドバイスしている」(同氏)。
Intelは2010年にCognoVision Solutionsを買収した。狙いは、その企業が保有していた匿名ビデオ解析(Anonymous Video Analytics:AVA)技術だ。この解析エンジンは、X86プロセッサ上で実行できる。Intelはこの技術を「Intel Audience Impression Metrics(AIM) Suite」と名付けて展開している。AIMは、デジタルサイネージ(電子看板)の端末装置上でローカルに稼働し、その広告を見ている人物の特徴に応じてディスプレイに表示する内容を変化させる(図4)。
図4 Intelのデジタルサイネージ 消費者とインタラクティブなコミュニケーションを図るディスプレイだ。消費者の性別や年齢、興味をローカルで解析して認識するとともに、そのデータをクラウド側のサーバに送る機能も備えている。出典:Intel
Steenman氏は、「以前のデジタルサイネージは、ローエンドのプロセッサを搭載した単なるマルチメディア再生装置で、受け取ったコンテンツをディスプレイに表示するだけの、ものだった」と指摘する。「しかし現在のデジタルサイネージは、カメラが追加されており、装置の内部でローカルに稼働するスマートな解析エンジンが周囲の人の性別や年齢を認識し、それに基づいて表示する広告を変化させられるように進化している」(同氏)。
またIntelは最近、セキュリティーソフトウェア大手のMcAfeeや組み込みOSベンダーのWind Riverも買収している。Intelはこれらの買収によって獲得した技術を組み合わせることで、自社のリモート管理ツールを活用し、組み込み機器のスマートシステム向けにPCライクのセキュリティー戦略を展開する取り組みを進めている。
Microsoftも組み込みスマート狙う
Microsoftもまた、組み込み機器のスマートシステムで存在感を高めることを狙っている。
同社のWindows OSは、ARMアーキテクチャやMIPSアーキテクチャ、X86アーキテクチャそれぞれの組み込みプロセッサから、ハイエンドのXeonベースのサーバに至るまで、さまざまなプラットフォームで稼働できる。
そこでMicrosoftは、この「トップツーボトム」のソフトウェア互換性を特徴として訴求する。同社によると、Windowsプラットフォームはこれまでに3億を超える組み込みシステムに採用されており、同社はこれをスマートシステムに活用していく考えだ。
MicrosoftでWindows Embeddedマーケティンググループのシニアディレクターを務めるBarb Edson氏は、「当社の戦略的な優位性は、ネットワーク末端でデータを収集するインテリジェントな組み込みシステムにもWindows環境を導入でき、そのデータをクラウドを構成するWindowsサーバに送信できることだ」と述べている。
例えばMicrosoftは今、フルーツの流通を手掛ける大企業を顧客として抱えている。その企業の狙いはこうだ。食料輸送用の木箱1つ1つの中にセンサーを搭載し、フルーツの熟れ具合をセンシングする。流通基地にそれらの木箱が到着したら、完全に熟していればそのまま陳列棚に送り出し、そうでなければ熟成倉庫にいったん収納するといった具合に、木箱ごと個別に最適な発送先を設定できる仕組みを構築する。これにより、旧来の人手による熟成具合の検査を不要にできるというわけだ。
MicrosoftのEdson氏は、「このようなスマートな組み込みシステムでは、インテリジェンスが極めて重要な要素である」と指摘する。「当社は、インターネットに接続する全てのものが最終的にはインテリジェントシステムに進化すると考えている」(同氏)。
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