ギターの弦のわずかな感触をあなたの指に、タッチパネル向け新技術が開発:ディスプレイ技術 触覚フィードバック
Immersionが新たに開発した触覚フィードバック技術を使えば、モバイル機器のコンテンツに応じたさまざまな感触を利用者に伝えられる。触覚は人の感覚のうちで極めて重要であるにもかかわらず、モバイル機器にほとんど活用されてこなかった。
米国に本社を置くベンチャー企業であるImmersion(イマージョン)は、高忠実度の触覚フィードバック(HDハプティクス)技術を開発し、これに対応した開発プラットフォームの提供を開始した。
触覚フィードバックとは、タッチパネルに触れたときにさまざまな感触を人に伝えるインタフェース技術である。これまでも携帯電話機やスマートフォンの一部の機種で触覚フィードバック機能が搭載されていたが、ボタンを押したときに感触を伝えるといったシンプルなものがほとんどだった。
同社のマーケティング担当のバイスプレジデントを務めるDennis Sheehan氏は、「当社の高忠実度の触覚フィードバックを使えば、モバイル機器のコンテンツに応じたさまざまな感触を利用者に伝えられる。コンテンツと実体験を触覚で結ぶことで、モバイル機器は次のステップへと進化するだろう」と語る。例えば、携帯型ゲーム機では画面を走るキャラクターが受けた衝撃を利用者に伝え、スマートフォンのギターアプリケーションでは画面上の弦をはじいたときに音色とともに弦のわずかな感触を利用者に伝えるといったことが可能になる。
触覚でモバイルを次のステップへ
Immersionが繰り返し強調するのは、人がさまざまな物体を把握するときの触覚の重要性である。ある物体を人が認識するとき、視覚や聴覚、嗅覚(きゅうかく)、味覚といった感覚機能を使う。これらの感覚機能と、固い、柔らかい、ざらざらしているといった触覚が融合し、物体を正確に認識する。「人の体験にとって触覚が極めて重要であるにもかかわらず、モバイル機器ではまだまだ活用されていない」というのが同社の主張だ。
同社はこれまで、タッチパネルを押したときにシンプルな感触を与える「ベーシックハプティクス」や、アクチュエータ(駆動源)の振幅や周波数を制御することでさまざまな感触を生み出す「プログラムハプティクス」を提供してきた。
新たに開発したHDハプティクスは、アクチュエータ(駆動源)で生成する振動波形を巧みに制御することで、さまざまな感触を生み出すことはこれまでと何ら変わらないが、感触の現実感を高めるために幾つかの改良を盛り込んだ。具体的には、人がタッチパネルを押した後に感触が伝わるまでの遅延時間を短くするとともに、振動の周波数範囲を広げた。このような改善で、「ギターの幾つかの弦をはじいたときの弦ごとのわずかな感触の違いを、触覚フィードバックで再現できる」(同社)と主張する。
アクチュエータを制御するアルゴリズムを改良することに加え、アクチュエータとして新たに「圧電アクチュエータ」と「電場応答性高分子アクチュエータ」を追加することで実現した。これらのアクチュエータは、機械的な時定数が5ms未満と短く(すなわち応答性が高い)、振動の周波数範囲が広いことが特徴である。これまでは、機械的な時定数が長く、振動周波数が固定または狭い「偏心回転量アクチュエータ」や「リニア振動アクチュエータ」が使われていた。
触覚フィードバックを搭載した機器の構成 タッチパネルを振動させるアクチュエータ(駆動源)や制御ハードウェアが必要。具体的には、タッチパネル制御ICまたはアプリケーションプロセッサにアクチュエータを制御するソフトウェアが載る。
なお同社は、1993年に誕生したベンチャー企業である。従業員は100人。2010年には台湾と日本に開発拠点を設けた。触覚フィードバック技術を専業にしており、所得済みと申請中のものを合わせて1200件を超える特許を有するという。「高度な触覚フィードバックを搭載するには、当社は避けて通れない」(イマージョンジャパンの代表取締役である小林剣護氏)という立ち位置にいるようだ。さらに最近、「タッチパネルに触れたときに触覚を与えるという基本的な事項に関する特許を取得した」(同氏)と主張している。
同社は、アクチュエータを制御するソフトウェアと、開発プラットフォームのみを提供するIPベンダーであるため、制御ソフトウェアを実装するハードウェアやアクチュエータは協業企業から入手する必要がある(関連記事)。
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