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荒波に向かう日の丸半導体、ルネサス・富士通・パナソニックが事業統合か業界動向 オピニオン

日本経済新聞は2月8日、ルネサス エレクトロニクスと富士通、パナソニックの3社がシステムLSI事業を統合する方向で協議を始めたと報じた。成功のシナリオは書けるのか。3社の思惑は。米国のEE Timesで編集長を務める筆者はこう見ている。

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 日本経済新聞が2012年2月8日付朝刊で報じたところによると、ルネサス エレクトロニクスと富士通、パナソニックの3社は、システムLSI事業を統合する方向で協議を始めた。各社でシステムLSIの設計・開発を手掛ける部門を切り出して統合新会社を立ち上げ、そこに官民ファンドの産業革新機構が数百億円を出資するという。製造部門は新会社とは分離し、産業革新機構と米国の半導体ファウンドリ専業GLOBALFOUNDRIESが日本に設立する新会社に移管する計画である。ただし、日本経済新聞のこの記事は、この統合に関わるとされる企業の談話が一切盛り込まれておらず、統合の枠組みを報じるにとどまっている。

 実に複雑な統合/合弁事業計画である。この青写真には、経済産業省の官僚の“指紋”がべったりと付いている。それでも実際問題として考えれば、このようなビジネスエンジニアリングは全く無意味というわけではない。

 3社のうちシステムLSI事業で比較的弱い位置にある2社――つまり富士通とパナソニック――は、この計画に乗って政府の支援を受けることで、同事業の寿命を数年間引き延ばせる可能性がある。しかしこの動きによって、ルネサス傘下にあるルネサス モバイルのように、3社の中で勝ち組になれる可能性を秘めていた事業が縮小を受けかねないという恐れもある。

国内半導体の統合の経緯と現状は

 それでは、今回の事案について詳しく見てみよう。

 まず、日本の半導体企業はこれまでも統合を進めてきた。ルネサス エレクトロニクスは、ルネサス テクノロジとNECエレクトロニクスが2010年に経営統合して誕生した企業であり、そのルネサス テクノロジ自体も、日立製作所と三菱電機が半導体事業を統合して2003年に立ち上げた企業だった。

 ルネサス エレクトロニクスは今に至っても、これら複数の統合合併を経て膨らんだ事業資産の取捨選択を続けているところだ。ただしルネサスは2010年に、ルネサス モバイルを携帯端末向けシステムLSI専業の100%子会社として切り離すという戦略的決断を下している。

 ルネサス モバイルは、携帯端末の世界で「Qualcommと肩を並べる」ことを目指している(参考記事)。これは筆者の個人的な見解だが、ASIC事業の比重が高い富士通セミコンダクターと、グループ内企業への「内需志向」が強いパナソニックの力を注入したとしても、ルネサス モバイルの取り組みを加速することにはつながらないだろう。

 一方でパナソニックはどうか。災難の前兆はしばらく前からあった。家電の大手メーカーである同社の半導体事業は、デジタル家電向け半導体の統合プラットフォーム「UniPhier」を自社開発した頃は、好調の波に乗っていたのかもしれない。UniPhierは、当初は自社のデジタル家電に組み込むホストプロセッサとして開発されたもので、2004年に発表されている。当時は素晴らしいプラットフォームであり、それゆえに同社はそれをグループ外の機器メーカーにも積極的に販売するという構想を掲げていた。しかしその構造はどんどんしぼんでいく。近年になって、台湾のシステムLSIベンダーであるMStarやMediaTekが急速に力を付け、勢力を伸ばしたからだ。

 そして昨年の秋、パナソニックは半導体事業を縮小する計画を発表した。従業員を1000人削減し、チップの製造を外部に委託するという内容だ。同社の半導体製品のうち、グループ内で消費される割合は50%まで下がっていたが、今後は同社がテレビの生産量を削減することでさらに低下すると予測される。半導体事業の再構築を探っていたパナソニックにとっては、ルネサスと富士通との今回の統合計画は、“天啓”に違いない。背負っていた製造工場とエンジニアをその肩から下せる場所が、突如として現れたのである。

 富士通セミコンダクターのアキレス腱は、プラットフォームを持っていないことである。同社の中核事業は今なおASICだ。国内の顧客に向けて素晴らしいASICを作り上げることにかけては優れているのかもしれないが、その事業をASSP(特定用途向け汎用製品)に転換する取り組みは成功していない。同社についても、3社の統合事業にどのような価値のある資産を提供できるのか、現時点では不透明だ。NTTドコモのような国内顧客を増やすことには貢献できるのかもしれない。だが、海外の顧客をそれほど増やせるわけではないことは明らかだ。

荒波にこぎ出す覚悟はあるか

 今回の事案でさらに理解が難しいのは、3社の半導体製造部門を統合するという計画である。どうしたら、ファウンドリ専業として存続できるというシナリオが書けるのだろうか。さらに言えば、GLOBALFOUNDRIESはいったいどんな役割を担うのだろう。

 こういう見方もできる。半導体の設計開発と製造それぞれの合弁会社を立ち上げるというこの計画は、3社にとっては単に、もう不要だと判断した事業を外に出す手段として選びやすかった。日本では、解雇や工場の閉鎖は特に問題視される。そうした日本の社会で、「首切り人」の汚名を着ることなく事を進められる選択肢というわけだ。

 しかし、リーダーシップの欠如、あるいは、不可避なことを何年も先延ばしする風土病とも言える優柔不断性が、日本のエレクトロニクス産業に取り返しのつかない犠牲を強いている。日出ずる国においてかつて栄華を誇ったエレクトロニクス産業は、今、可能性の少ない将来に賭けて盲目的に身を寄せ合おうとしている。その様子はまるで、貨車の中の孤児のようだ。

 「みんなで渡れば怖くない」――。日本にはこんな言葉がある。しかし今、“貨車”から見える景色はひどく恐ろしく、誰も渡りたいとは思っていない。

【翻訳/編集:EE Times Japan】

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