「環境発電って使える? 使えない?」、開発動向の今を追う:エネルギー技術 エネルギーハーベスティング(1/3 ページ)
われわれの周囲にある、普段意識されていないエネルギー源を有効活用する「環境発電技術」。照明制御や空調制御といったビルオートメーションや、構造物/工場のヘルスモニタリング、ワイヤレスセンサーネットワークといった用途に有効だと期待されているが、日本ではほとんど使われていない。それはなぜか? 現状をまとめた。
太陽光や振動、熱、電磁波――。普段意識されていない微弱なエネルギーを有用な電力源として抽出する「エネルギーハーベスティング(環境発電)技術」。日本国内でも数年前から注目されるようになってきた新しい技術だ。照明制御や空調制御といったビルオートメーションや、構造物/工場のヘルスモニタリング、ワイヤレスセンサーネットワークといった用途に有効だと期待されている。
環境発電をうまく使えば、一次電池や電源ケーブル接続を利用せずに、制御スイッチやセンサーのデータを取得・無線伝送できる。「素晴らしい技術だ」という見方がある一方で、環境発電技術に詳しいある技術者は、「ここ最近、『この技術を広く実用化するのは難しいのではないか?』という声も聞くようになった」と指摘する。
このような指摘の背景には、この技術を最終的に導入する側(例えば、建築や不動産業界)に技術そのものがあまり知られていないという実情がある。それゆえ、技術を開発する側は特定のアプリケーションを想定した具体的な仕様が決めにくい、という構図がありそうだ。
すなわち、技術を開発する側は、多くのアプリケーションに対応すべく「できるだけ多くのデータを、できるだけ安定に送り、できるだけ長く稼働するように」、環境発電技術を使った“リッチな”システムを目指す。しかしながら、環境発電技術には、環境に存在するわずかなエネルギー源を取り扱うことに起因した技術的なハードルがあり、おいそれとは実現できない。安定した電力を生み出すのは難しく、生み出せる電力もごくわずかである。このような背景が、前述の「やっぱり使えないのでは……」という声につながっているようだ。
ただ現状をまとめると、環境発電技術の導入が進む方向へと、ゆっくりと変わりつつあると言えそうだ。理由は2つある。1つは、エレクトロニクス業界にとどまらず、他の業界でも環境発電技術が認められるようになってきた点である。例えば、2011年以降、日本国内でも幾つかの採用実績が生まれてきたことに加えて、準大手ゼネコンの戸田建設が環境発電技術を使った照明制御スイッチの積極採用を表明するという動きがあった(関連記事:環境発電の導入促す風穴となるか、大手建設会社が積極採用を表明)。
戸田建設の担当者は、「不動産業界には、環境発電技術がほとんど知られていないのが現状だ。ただ、当社が実証実験を開始するという発表には大きな反響があり、手応えを感じている。既に、環境発電技術を採用したビルシステムの営業活動を開始しており、2012年夏には実際の販売を始める予定だ」と語った。
もう1つの理由は、環境発電技術に適したさまざまな要素部品、具体的にはハーベスタ(発電素子)や、蓄電部品、電源部品、無線通信用IC、マイコンがそろってきたことだ(半導体ベンダー各社の環境発電向け製品の紹介サイト:Linear Technology、Maxim Integrated Products、Texas Instruments)。
温度差を電力に変換するハーベスタ(熱電変換素子)を開発するベンチャー企業であるMicropeltのSales&Marketing部門のVice Presidentを務めるWladimir Punt氏は、EE Times Japanの取材に対し、「2011年は半導体ベンダー各社が環境発電向け製品を発売するなど、大きな変化のあった1年だった。環境発電技術は、研究開発から実用段階へと移った。2012年はまさに、環境発電技術が広がり始める変化の1年となるだろう」と現状をまとめた(関連記事:成長続く環境発電市場、2021年には44億米ドル規模に)。
次ページ以降では、2012年2月に開催された商談会/展示会における、環境発電関連の展示を紹介する。
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