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「ヒアリング」に臨み、心構えるべきこと(前編)エンジニアのための市場調査入門(4)(2/3 ページ)

いよいよ今回から市場調査の工程の1つである「ヒアリング」の手法を解説していきます。市場調査を長年手掛けていたプロである筆者が、ヒアリングに当たりどのような準備をし、どのような心構えで臨んでいるかを紹介します。

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常に「5W1H」を意識して聞く

 本連載の第1回に「マーケティングとは、いつ、誰に、何を、どれだけ、どうやって売るか、を考える戦略であり、すなわちモノを売る上での5W1Hである」と書いたが、ヒアリングも5W1Hが基本となる。

 我々が担当している分野は「CMEO(Chemicals、Materials、Electronics、Optics)」なので、基本的な取材項目は以下の通りである。

  • 会社概要・沿革
  • 生産拠点・能力・増強計画
  • 売上高・利益の推移(会社、事業部門、製品)
  • 販売量推移(トータル量、分野別、機能別、地域別など)
  • 販売量の増減の理由
  • 製品の特徴(製品そのもの、生産上の特徴)
  • 新グレードの特徴・開発の狙い
  • 価格
  • 販売チャネル(販売上の特徴)
  • 研究開発拠点・体制(人員など)

 これら全てに対し、5W1Hを意識して聞いていく必要がある。5W1Hがはっきりしている文章は分かりやすいだけでなく、図表化しやすいという利点もある

 特に、販売量や価格などは、「いつ、どこで、何が、どのくらい、なぜ変化(推移)したのか」と、まさに5W1Hが問われている項目である。このような数字を伴う質問をする際には、あらかじめ表など具体的なものを用意しておくとよい。あるテーマにおいて初めての取材先の場合、「この表はまだブランクではあるが、我々は最終的にはこのような表を作りたい」という意志表示とビジュアルで訴える効果がある。口頭で「何年には何トン売れましたか」などと聞くよりも効果的であることは間違いない。また、取材相手がその場で数字をつかんでいなくても、ファイルを送れば数字を記入して送り返してくれることもよくある。

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ヒアリングで活用する図表の例 その1 静電容量方式タッチパネル用のITOフィルムメーカーの販売量・シェア推移をまとめるときに使ったもの。(クリックすると拡大します)
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ヒアリングで活用する図表の例 その2 IPS-LCDの偏光板メーカーと使用される位相差フィルムをまとめるときに使ったもの。(クリックすると拡大します)

 あまり語られないことだが、取材者と被取材者がある言葉・用語について同じ定義で語っているかを確認することも重要だ。このことはヒアリングだけでなく、全てのコミュニケーションにおいても言えることで、同じ社内ですら部門が異なると別な定義で語られていることは少なくないのではないか。

 例えば「付加価値」。この用語は大きく2つに分けると「粗利」といった意味合いと「(機能やデザインなどのように)ある商品に新たに付与された価値」といった意味合いがある。多くは後者として使われることが多いようだが、コミュニケーションにおいては相手がどちらの意味合いで話しているのか判断する必要がある。

 「技術」という言葉を勘違いしている者も少なからずいそうだ。ある製品の「技術動向」などと文章にタイトルがついているにもかかわらず、その内容は「スペック(仕様)」であったりする。技術とは本来、そのスペックやコストダウンを実現するための材料の使い方であり、生産の方法・工夫であるはずだ。このような勘違いは、文科系の経験の浅い若い人が陥りやすい。

 こうした問題はヒアリング(にとどまらず全てのコミュニケーション)において常に横たわっている。ヒアリングの相手と自分が使っている用語の定義が違っていそうであれば、どういう定義でその用語を使用しているのか確認することだ。リポーティングする際、正確なニュアンスで伝えないとさまざまな経営判断を狂わせることにもなりかねないからだ。

「ストーリー」の流れに沿って質問

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写真はイメージです

 質問の順番とノート(メモ取り)についても触れておこう。質問の順番はリポーティングする際のストーリーに乗っている方がよい。我々の基本的な質問項目は前述の通りだが、これはこれで1つのストーリーとなっているのだ。

 ここで言う「ストーリー」とは幾つかの意味を持つ。1つ目は、個別企業の動向について記述する場合のストーリー。上記の質問の順番にのっとって書いていく。どの企業のことを書いても、おおよそ同じような順番で記述されている方が他社との比較などしやすいと思われる。2つ目は、リポート全体の「ストーリー」。これについては、次回以降の「分析、予測、調査後」編で述べさせていただく。3つ目は、厳密に言えば後述する「仮説(hypothsis,supposition)」ということになる。このセンテンスで述べたいことは、

「我々の質問の順番」という単純な意味での「ストーリー」のことである。

 被取材者の立場によっては、答えやすい質問や答えにくい質問があったり、パーソナリティによっては話があっちこっち飛んでしまうような人もいる。こちらの立場としても、ある質問に対する答えからもっと興味深い質問を優先させたいケースもでてくる。このため、用意していた質問の順番通りにヒアリングが進行するわけではない。

 私もかつては見開きのノートに順番を意識した質問を書き込んで抜け落ちはないか細かくチェックして取材に望んだ。しかし、被取材者が私のストーリーに乗って答えてくれることはそう多くないことが分かってきてからは、バラしたリポート用紙1枚に1つか2つの質問にとどめ、メモできるスペースを広くとるようにした。これをストーリーの順番に並べておく。被取材者がストーリーに乗ってくれればそれがベストだからだ。

 昨今では基本的な質問と数字を記入する表はPCで作成し、その企業独自の質問などはリポート用紙に手書きで書いたりしている。また、ヒアリングの直前にコーヒーショップなどで質問項目の最終チェックをしているときなどに、突然新しい質問が浮かぶことも少なくない。そうしたらリポート用紙を必要枚数バラし、しかるべき順番のところに挟み込む。

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