市場調査というジグゾーパズルを組み上げよう〜分析/予測から執筆後まで〜:エンジニアのための市場調査入門(最終回)(3/4 ページ)
今回は、ヒアリングで集めたさまざまな情報をまとめ、リポートとして作り上げる「分析/予測」、「執筆」、「その後」という工程に話題を移します。市場調査を長年手掛けていた筆者は、「市場調査とはジグゾーパズルのようなもの、手持ちのピース(情報)で全体を推定するには「細かい観察力」と「大胆な洞察力」が要求される」と語ります。
次に、各章内における文章の組み立てだが、良い取材をして情報やデータがそろっていても、文章をうまく組み立てられない人をたまに見掛ける。このような人はそれぞれのセンテンスではいいことを書いているのだが、あるまとまった文章を読むと話の内容があっちこっちいったりしていて、全体として何が主題なんだか、何が言いたいのかよく分からない。
こういう人に私がアドバイスしていることがある。「手間は掛かるがフローチャートを作ってみろ」と。最近はあまりフローチャートといったものを見掛けなくなったような気がするが、以前は企業のQCサークル活動などではよく用いられた手法で、込み入った文章を分かりやすく書くために導入してみる価値はあると思う。重要なキーワードを書き出して、その派生効果などを「→」でつなげていく。そして、その順番で文章を書いていけばよいのだ。文章を書くために作成したフローチャートは、そのまま図としても使用できるし、文章を読んだあとに図によって頭の中を整理することもできる。
市場調査リポートの文章は「美文」である必要はないと思われるが、われわれにとっては商品であるので、やはりあるレベルの文章力は求められる。私自身、系統立った文章の訓練を受けたというわけではないが、私が部下の文章でよく注意するのは、(1)ダラダラと長い文章、(2)文章の語尾、(3)接続詞、(4)句読点、(5)助詞、(6)意味不明な表現、(7)漢字・ひらがな・カタカナ、(8)しつこい表現などである。
(1)は言うまでもなく、適当な長さの文章が望ましい。(2)は1ページ内に「である」とか「とする」といった用語が文末に何度も何度も出てくること、(3)は「また」、「なお」、「ただ」、「そのほか」、「すなわち」など不必要な接続詞が頻繁に使用されると、文章のスピード感を失わせることになる。
(4)については、句読点は多くても少なくても読みにくい。(5)は例えば「の」が多いこと。「産業用のPC」は「産業用PC」でよいではないか。(6)は、例えば「市場の本格化」は書き手の気持ちは分からないでもないが、何を意味しているのかよく考えると分からない。
(7)は何でも漢字を使いたがること。「纏める」、それとも「まとめる」?「及び」、「および」? 「その他」、「そのほか」? 文章の見た目のスッキリ感から、私はいずれも後者を推奨する。場合によってはあえてカタカナを使うという手段も使いたい。「空手」が「カラテ」、「捌き」が「サバキ」、「漫画」が「マンガ」となったように。必ずしも一般常識というわけではないが、これまで漢字で表現されていたジャンルをカタカナで表現することで、あたかも新しいジャンルが出てきたような効果がある。(8)は、「取り扱いを行っており」→「取り扱っており」、「解析を行っているノウハウ」→「解析ノウハウ」、「であると言われている」→「とされる」。
調査後 〜他部門との情報共有も積極的に〜
繰り返すが、市場調査リポートはわれわれの商品なので、それを売らなければならない。そのために原稿が印刷に回り、製本されてきても一連の仕事はまだ終わりではない。PDFの版下を印刷に回し、3日くらいで商品が完成するわけだが、この間に販売のためのダイレクトメール(DM)を作成する。DMは発刊前にも制作し顧客に案内することも多い。
当社のDMはA3の両面を使う。この1枚で最大の効果をあげられるよう制作しなければならない。どういう宣伝文句にするか、業界は現状どうなっていてどうなっていくのか、どういったサンプル図表を使うか。われわれの作品をまずはDMで世に問うのである。まあ、電車内の中づり広告のようなものではあるが、潜在読者の心に響くようにコピーの一句一句に気を使っている。コピーは各人のセンスが最も問われるもので、教えてうまくなる者もいれば、もともと良いセンスを持っている者もいる。ただ、一つ言えるのは、いずれにしてもこうしたコピーは「取材」の中にこそある。取材においていかにインパクトのある「言葉(コピー)」を引き出すか、あるいは「言霊」的なものにまで昇華できるかにかかっているのだ。
DM作成の作業と並行して、フィードバック資料の作成にも取り掛かる。取材でお世話になった先に御礼の意味も込めて、当該リポートをサマリー化する。サマリーとはいえ、Power Pointで20〜30ページになることもある。
われわれはセミナー会社に講師として呼ばれることもある他、私が事業部長を務める「CMEO事業部」が主催するセミナーも年2回ほど開催している。また、自社企画リポートを発刊した際には、希望する企業に対して個別セミナーも案内している。セミナーでは先のフィードバック資料をベースに再加工した資料を用いたりしている。
リポート作成〜セミナー開催は当社の事業として行っているわけだが、エンジニアの皆さんも市場調査を行った際には、社内発表会などをやってみてはいかがだろうか。恐らく、他部門が集めてきた情報や数字とあなたが集めてきたそれは違っているかもしれない。しかし、そうした情報や数字のすり合わせの中で、斬新な戦略も生まれてくるのではないだろうか。
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