NECのメタマテリアル「応用」アンテナ、その開発思想を探る:無線通信技術 アンテナ設計(3/4 ページ)
NECが作り上げた独自構造のアンテナは、安定した通信特性や業界最小クラスの寸法を実現したことが特徴である。ビルや宅内のエネルギー管理システム用の無線通信モジュールなどに幅広く使える。このような特徴をいかに実現したのか? その答えは、「メタマテリアルを応用」という言葉に隠されている。
メタマテリアル「インスパイア系」
NECは2009年に、材料はそのままに構造をうまく作り込むことで電磁気的な雑音対策を実現したという研究成果を発表しており(ニュースリリース)、その後「材料はそのままに構造を作り込む」という同様のコンセプトをアンテナ設計に展開した。
NECの研究グループがまず注目したのが、前述の伝送線路型のメタマテリアルである。ただ、幾つかの課題の解決が難しかった。試行錯誤する中で思い付いたのが、共振型のメタマテリアル構造(媒質)を構成する最小単位である金属片(スプリットリング共振器)をアンテナとして使うことである。金属の円の一部分を切り取ったようなスプリットリング共振器を、周期的に並べたメタマテリアル媒質は広く知られていた。しかし、「スプリットリング共振器はありふれた形状の素子だったが、アンテナ素子としては使われていなかった」(同社)という。
ただ、スプリットリング共振器をそのままアンテナ素子として使うと、小型化が難しく、放射効率が悪いという2つの課題があった。この2つの課題を解決するためにNECは、アンテナ素子の多層化と、グラウンド(GND)面の形状の最適化という2つの工夫を盛り込んだ。「メタマテリアルの研究開発の流れで、スプリットリング共振器をアンテナ素子として使う可能性を見出したこと。その上で実際の製品に落とし込むための改良をアンテナ設計に実際に盛り込んだことに独自性がある」(同社)。
「多層化」と「GND面の一体設計」
まず、そのままでは小型化が難しいという課題に対しては、アンテナ素子を多層化する手法を採用した。一般にアンテナ素子の共振周波数は、素子のインダクタンス(L)とキャパシタンス(C)で決まり、図に示した数式で計算できる。ここで、ある狙った共振周波数(例えば、2.4GHz)のアンテナを設計するときに、アンテナ素子を多層(並列)化しキャパシタンス(C)値を増やせば、インダクタンス(L)値を小さくできることになる。
基本的にはアンテナ素子の寸法が大きくなるとL値は増える方向に働く。従って、アンテナ素子を多層化しC値を増やすことで、アンテナ素子を小型化しつつも、狙った共振周波数を実現できることになる。
しかし、アンテナ素子の小型化は、電磁波を空間に放射する効率(放射効率)の低下を招く。これは逃れられない物理現象だ。そこで一般的な小型アンテナでは、アンテナを形成する基板のGND面もアンテナ素子の一部として活用し、アンテナの実効面積を増やすことで放射効率を稼いでいる。
NEC独自のアンテナでも、同じ考えでGND面を活用している。ただこれまでは、必要以上にGND面に共振電流が流れてしまい、これがアンテナ素子を基板に実装したときの特性変動を引き起こす要因になっていたという。同社は、スプリットリング共振器とGND面の形状を一体的に設計することで、GND面を利用し放射効率を高めつつも、GND面に流れ出す共振電流を最適に制御できた。
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