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NECのメタマテリアル「応用」アンテナ、その開発思想を探る無線通信技術 アンテナ設計(2/4 ページ)

NECが作り上げた独自構造のアンテナは、安定した通信特性や業界最小クラスの寸法を実現したことが特徴である。ビルや宅内のエネルギー管理システム用の無線通信モジュールなどに幅広く使える。このような特徴をいかに実現したのか? その答えは、「メタマテリアルを応用」という言葉に隠されている。

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そもそも「メタマテリアル」とは何か?

 まず、「メタマテリアル」とは何なのかを解説しよう。NECの独自構造のアンテナの全体像を理解するには、メタマテリアルについて知っておく必要があるからだ。

 メタマテリアルとは、自然界の材料そのものとは異なる特性を人工的に生み出した構造体(媒質)のことである。こう書くと仰々しく分かりにくいが、「蟻の目」では木に見え、「鳥の目」では森に見えるような構造体と書くとイメージしやすいかもしれない。球状の金属材料(金属球)を例に挙げよう。金属は電気を通す「導電性」を有するというのが一般的な認識だろう。確かに、電磁波の波長をλとしたとき、金属球の寸法が波長λのスケールより大きいとき、金属球は導電性という材料固有の特性を示す。

 ところが、電磁波の波長λに対して十分に小さい金属球を周期的に並べると、材料固有の導電性という特性は薄れ、金属の形状や配列で決まる新たな特性、金属球の例では直流電流は通さない「誘電性」が表れてくる。まるで、蟻の目では茶色の木々が、鳥の目で見ると緑色の森にがらりと変わる、そんな雰囲気だ。

図
自然界の材料そのものとは異なる特性を人工的に生み出した構造体(媒質)であるメタマテリアルのイメージ

 まとめると、電磁波の波長λより十分に小さい周期的な構造を作り込むことで、その材料が持っていない特性を引き出そうというのがメタマテリアルのコンセプトである。こうして生み出した周期構造を、自然界にはない人工的な媒体という意味でメタマテリアルと呼ぶ。さまざまな興味深い振る舞いをする構造体(媒質)を人工的に生み出せるという期待があり、2000年以前から研究開発が進められてきた。

図
メタマテリアルを実現する3つの要素 一般に全ての材料の(電気的な)性質は、「誘電率ε」、「透磁率μ」、「導電率σ」というたった3つの指標で表現できる。誘電率εは、材料に電界を加えたときの振る舞いを決め、透磁率μは材料に磁界を加えたときの挙動を表す。材料固有の誘電率εや透磁率μを、「材料の種類」、「形状」、「空間的な配置」という3つの要素で、自在に制御しようというのが、メタマテリアルという研究領域の最終的なゴールである。山口大学大学院理工学研究科で教授を務める真田篤志氏によれば、誘電率εや透磁率μが外部から加える電界や磁界の関数になる「非線形」や、電界や磁界を加える方向の関数となる「異方性」、周波数の関数になる「分散性」も含め、制御することを目指した研究が進められているという。出典:山口大学大学院理工学研究科 真田研究室 (クリックで拡大します)

 当初は、ある共振周波数を有する素子を周期的に並べた構造の「共振型」と呼ばれる方式の研究が中心だったが、この構造はメタマテリアルとして動作する周波数範囲が狭く、損失が大きいという課題があった。米UCLA (University of California, Los Angeles)の教授である伊藤龍男氏の研究グループが2002年に、共振型に比べて周波数帯域が広く、損失を抑えられる「伝送線路型(CRLH:Composite Right/Left-Handed)」と呼ぶ方式を提案したことで、メタマテリアルの研究の流れが、マイクロ波帯の高周波回路の領域に広がってきた(関連記事)。NECの「メタマテリアル応用アンテナ」も、このような研究開発の流れの中で生まれたものである。

左は、メタマテリアルの研究の歴史。右は、現在の研究開発の状況を図示したもの。実際のアプリケーションへの展開に向け、「生みの苦しみ」という状況にある。出典:山口大学大学院理工学研究科 真田研究室 (クリックで拡大します)

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