Twitter大嫌いな研究員が、覚悟を決めた日:「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論 ―番外編―(2/3 ページ)
Twitterなる奇妙なコミュニケーション手段が登場した時、「こんな珍奇な通信手段、一刻も早く消えて無くなってしまえ!」と願ったものです。しかし間違っていたのは、私でした。
エンジニアだからからこそ、技術の未来は読めない
Twitterが初めて登場した時、こんな珍奇な通信手段、一刻も早く消えて無くなってしまえ」と強く思ったものですが、結局、無くなっていません。
それどころか、今やTwitterやFacebookは、社会システムを支える為になくてはならない重要な通信インフラにまで成長しました。新しいタイプのコミュニティーの創成を促し、列車運行情報や天気情報をリアルタイムに通知し、そして2011年3月の東日本大震災においては救助活動の通信手段として、その効果は決定的に認知されるに至りました。
私は、20年近く、インフォメーションテクノロジ(IT)の研究に携わってきた、IT通信技術の専門家です。私たちの仕事の半分は技術開発、そして残りの半分は、IT通信技術に関する将来10年くらいの長期予想と、それに基づく技術開発戦略を立てることです。未来を正確に予見できなければ、技術企業としての経営戦略が成り立たないからです。これまで、大きく予想を外すことはなかったと考えています。
しかし、私の「個人的」な未来予想は「当たらない」。もう全然ダメ。そうですね、それでも例えば電子メールの登場だけは当てたと思います。しかし当てたと言っても、1980年代後半は、「電子メール」を使っているというだけで、「オタク」扱いされて、大学のキャンパスでは石を投げられるような冷たい仕打ちにあっていたのも事実です(工学部のキャンパスで、です)。
これ以後は、もう散々外しまくりました。まず、TwitterやFacebookの隆盛を外していますし、そもそも「携帯電話のメール」も絶対にはやらないと断言してはばかりませんでした。理由は、「数字キーで文章を打つような、そんな面倒なことを誰がするか!」と……。分っています、間違っていたのは私です。今の若い方は、スマートフォンを使って、私のキーボード入力より高速に文字を打ち込んでいます。
さらにさかのぼってみると、「個人によるインターネットの常時接続」の実現も当てることはできませんでした。インターネットが使われ始めた当時はPCの立ち上げと同時に、電話回線を接続するダイヤルアップによる接続が一般的で、「常時接続」は個人には夢のような環境でした。「常時接続」を前提にして執筆した私の発明は、上司に苦笑されて、自ら特許出願を取り止めるに至りました。出願していれば、今頃は……。うん、やめよう。まだ私はサラリーマン研究員を続けたい。
逆のパターンもあります。GPSなどを使った位置情報サービス(LBS:Location Based Service) について、私は1990年代後半から特許明細書を書きまくり、多くを特許発明とすることができました。しかし、なかなかLBSははやらず、特許権の存続期間が相当経過した今頃になってGoogleなどが、LBSサービスの覇権争いを繰り広げています。私は指をくわえて、部外者として彼らの戦いを眺めているだけです。恐らく、多くのエンジニアも同じような体験をされてきたのではないかと思います。
「エンジニアは、未来を読めない」のではなく、「エンジニアだからこそ、未来を読めない」、または「未来は読めるが、その時期をピンポイントに特定できない」という表現が正しいと思います。どのような緻密な分析も詳細な調査も、エンドユーザーの好みやその時代のトレンドの前では、ちり、あくたのごときです。
ですから、「新しい技術」が登場してきたとき、利用者であるあなたの取るべき戦略は、エンジニアの語るバラ色の未来に耳を傾けることではありません。「場当たり主義」に基づき、「好きか嫌いか」、「使えるか使えないか」、「安いか安くないか」の二者択一で判断すれば十分です。ゆめゆめエンジニアの預言なんぞを当てにしてはなりません。少なくとも、「私(江端)」を信じてはいけません。絶対、当たりゃしないのですから。
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