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「あの頃私は若かった……」、上司の昔話はどんどんしろ!いまどきエンジニアの育て方(3)(2/2 ページ)

「自分の若い頃の話をしても、若手には聞いてもらえない」――。ベテランエンジニアの皆さんの中には、そのように考えている方が多いのではないでしょうか。けれど、実はそうとも限りません。あるポイントさえ押さえて話をすれば、“上司の昔話”が若手エンジニアとの距離を縮めるツールになることもあるのです。

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隣は何をする人ぞ、縦割り社会の開発現場

 田中課長は、佐々木さんに何をどう話そうかと、自分が入社して2、3年目の頃を思い出していました。

 ……昔のように製品規模が小さかった時代は、一人のエンジニアがアナログ/デジタルのハードウェア設計も、ソフトウェア設計もまとめて担当することも珍しくなかったな。製品規模が大きくなった今では、一人では製品の全体像を把握することすら困難になった。ハードは、ボードごとに担当をアサインする場合もあれば、デジタル設計者とアナログ設計者に分けてアサインすることもある。ソフトも、モジュールやライブラリ単位で細分化されて、それぞれの開発担当者がアサインされることが多い。

 エンジニア個々人としては、自分が担当する部分の仕様書がドキュメント化されて明確になっていれば設計業務を進められる。だから、自分の担当箇所をひたすら一生懸命設計しているというのが実情だ。担当者同士で、あまり会話はしていないようだし……。

 その結果はどうだ? ハードとソフトを統合した途端に動作しなくなる。エラーの要因がハードなのかソフトなのか切り分けができない。ソフトもコアの部分は外注が設計したので社内で分かる人間がいない。こんなことが、日常的に起きている……。

 一般に、製品が複雑化すればするほど、担当者の役割を明確に分けるので、開発現場は「横方向のコミュニケーション」がとりにくい縦割り社会になりがちです。下手をすれば、隣の席の人が何をしているかもよく分からないことさえあります。

 さらに、上司と部下がちゃんとコミュニケーションをとれていない場合、「縦方向のコミュニケーション」もうまく機能していないことになります。つまり、縦横のコミュニケーションが両方ともとれず、個々のエンジニアが孤立してしまう可能性があるのです。

 田中課長は、「新製品の開発に関わったときに、佐々木さんが孤立するようなことがあってはいけない」と気にし始めました。佐々木さんを開発チームの主力メンバーに抜てきしたときは、そこまでは考えなかったのです。

まずは上司が口火を切る!

 さて、田中課長の前で、佐々木さんは少し緊張気味です。そんな佐々木さんをさほど気にする様子もなく、田中課長は昔の製品の開発方法や、一人で何でもやらざるを得なかったこと、ミスをした際に上司が励ましてくれたこと、自分も温度試験を3カ月やっていたことなどを話しました。そして、「実は当時は、温度試験なんて開発とは程遠い作業だと思っていたんだ。けれど今振り返ってみれば、結果として何一つ無駄なことはなかった」と締めくくりました。

 佐々木さんは、一方的に話し始めた田中課長に戸惑いを覚えながらも、田中課長の温度試験のエピソードに、「実験の手伝いをしていたのは、自分だけじゃないんだ」と、少し親近感が湧くのを感じました。

 どうやら田中課長は、温度試験を“共通項”にしたことで、佐々木さんの共感を得ることに成功したようです。


 さて、次回は、松田課長が、「上司の話はどんどんしろ!」というアドバイスとともに田中課長に教えた聞き慣れない言葉、「組織学習」についてお話します。

Profile

世古雅人(せこ まさひと)

工学部電子通信工学科を卒業後、1987年に電子計測器メーカーに入社、光通信用電子計測器のハードウェア設計開発に従事する。1988年より2年間、通商産業省(現 経済産業省)管轄の研究機関にて光デバイスの基礎研究に携わり、延べ13年を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者として、開発・技術部門の“現場上がり”の経験や知識を生かしたコンサルティング業務に従事。

2009年5月に株式会社カレンコンサルティングを設立。現場の自主性を重視した「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを提唱している。2010年11月に技術評論社より『上流モデリングによる業務改善手法入門』を出版。



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