人体通信網向けの新規格、策定開始から5年で正式に発進:無線通信技術 BAN
人体通信網(BAN)に向けた新しい規格「IEEE 802.15.6」が正式に発行された。これにより、「Bluetooth Low Energy」や「IEEE 802.15.4」の置き換えが進むと予想されている。
近距離の人体通信網(BAN:Body Area Network)に向けた新しい国際標準規格「IEEE 802.15.6」が、策定開始から約5年を経て2012年5月21日に正式に発行された。約3mの範囲における最大10Mビット/秒の接続を対象とした仕様である。
そもそも人体通信網(BAN)とは!?
「BAN:Body Area Network」とは、人体の表面や内部に置いたセンサーなどの情報をワイヤレスで収集することを想定した無線ネットワークのこと。ヘルスケアや医療、介護、見守りといった分野で活用されることが期待されている。詳しくは、「活用始まる人体無線網、ヘルスケアから新市場が立ち上がる」をチェック!
IEEE 802.15.6は、近距離および低消費電力の無線通信技術の中でも、人体の表面または体内での機器の使用を想定しているという点で、他の技術とは異なっている。
この新規格は、着脱式のボディーセンサーや体内埋め込み(インプラント)型医療器具、スポーツ/フィットネス機器など、幅広い機器への適用が見込まれる。例えば、帯域幅が高い機器の場合には網膜移植のデータの送信、帯域幅が低い機器の場合には、義肢を使用する際のストレスの追跡や、心拍数などの因子を測定するセンサーとの接続といった用途を想定している。
IEEE 802.15.6は、さまざまな種類の専用の無線通信規格を置き換えると期待される。例えば、Bluetoothの低消費電力規格である「Bluetooth Low Energy」や、ホーム/ビルオートメーションなどのアプリケーション向けとして最大300mの範囲内で250Kビット/秒の伝送速度に対応する「IEEE 802.15.4」などは、今後確実に置き換えが進むとみられる。
米国は既に、IEEE 802.15.6を医療機器向け無線通信の400MHz帯として採用することを決定した。IEEE 802.15の議長を務めるBob Heile氏によると、同規格が今後、2.3GHz帯にも対応可能になれば、米国内の医療用アプリケーションの他、中国が医療用途として確保している3つの周波数帯域にも適用される見込みだという。
今回、IEEE 802.15.6の策定にあたり、約60社の企業のエンジニアが参加した。半導体メーカーからは、BroadcomやFreescale Semiconductor、Intel、NXP Semiconductors、Qualcomm、ルネサス エレクトロニクス、Texas Instruments(TI)などが参加した他、民生機器および医療用機器のトップメーカーであるGEやMedtronic、Philips、Samsung Electronicsなどのエンジニアも加わっている。
Heile氏は、「今回の仕様策定にあたって毎年6回ほど定例ミーティングを開いたが、毎回60〜100名が参加した。IEEE 802.15.6が非常に高い関心を集めていたことがうかがえる」と述べている。
IEEE 802.15.6に対応した製品として最初に市場に投入されるのは、おそらく民生機器だろう。医療用機器は、設計サイクルが長期にわたる上に、規制当局による認証も必要になるからだ。
機器メーカー各社は最初に、IEEE 802.15.6が定義するPHY層やMAC(Media Access Controller)層への対応が必要なため、高レベルのプロトコルやソフトウェアスタックを独自に開発しなければならない。Heile氏は、「新規格ではTCP-IPの実装が可能だが、それ以外については、メーカー各社の使用目的に応じて、初期の段階でプロトコルの開発が必要だ」と述べている。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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