検索
特集

2012〜13年は目が離せない!! 新たな社会インフラ導入へ無線技術の準備整う無線通信技術 スマートメーター(4/7 ページ)

スマートグリッドやスマートハウスといった、新たな社会インフラを対象にした無線通信技術の準備が整い、2012〜2013年に掛けて、いよいよ機器開発の段階に移行しようとしている。キーワードとなるのは、「920MHz帯」、「IEEE 802.15.4g」、「Wi-SUN Alliance」、「ZigBee Smart Energy Profile(SEP) 2.0」、「ECHONET Lite」などだ。

Share
Tweet
LINE
Hatena

「920MHz帯のマルチホップ通信」がキーワード

 それでは、大規模かつ高信頼のスマートユーティリティネットワークを想定し、活発に進められている製品開発や実証実験のうち、OKIと情報通信研究機構(NICT)の事例を取り上げよう。

 いずれの事例でも、「920MHz帯(または950MHz帯)」の「マルチホップ通信」を採用しており、これによって大規模、高信頼という無線ネットワークを構築したことが特徴だ。この2つは、今後、IEEE 802.15.4gを採用したさまざまな無線ネットワークの重要なキーワードとなる。まず、920MHz帯とマルチホップ通信のそれぞれの特徴を解説し、その後、OKIとNICTの実証実験の内容を紹介する。

図
920MHz帯のマルチホップ通信の3つの大きな特徴

 前述の通り、IEEE 802.15.4gでは、利用できる周波数帯域は柔軟性を持たせ、世界各国の規制に準拠することが想定されている。幾つかの周波数帯の中でとりわけ重要なのが、920MHz帯だ。理由は2つある。1つは、世界各国で共通して使える周波数帯になりつつあるという点だ。米国や中国、韓国、オーストラリアでは既に920MHz付近に割り当てられた周波数帯があり、日本でも2012年7月25日から920MHz帯(915M〜928MHz)が本格的に利用できるようになる*4)。残る欧州でも、865〜868MHzから915〜921MHz帯に周波数割り当てを移行することが検討されているようだ。

 もう1つは、「バランスが良い」という920MHz帯ならではの特性だ。具体的には、2.4GHz帯より電波の到達性が高く、430MHz帯の特定小電力無線よりも高いデータ伝送速度を実現できる。しかも、2.4GHz帯とは異なり、幾つもの無線通信方式で混雑していないので干渉が少ない。920MHz帯とほぼ同じ特性を示す950MHz帯と、2.4GHz帯を比較したOKIの通信実験の結果では、950MHz帯で1mWを出力したときの到達距離は600m、10mW出力時に2.5km(見通し時の範囲)と、2.4GHz帯と比較すると3倍もの伝搬距離を実現できることを確認したという。見通し外伝搬下でも、2.4GHz帯に比べて10倍以上の回り込み特性となり、建物や障害物の多い都市環境でも安定した通信特性を見込めることが分かったという。

 一方のマルチホップ通信とは、「低コスト化」、「大規模化(広い通信範囲)」、「高信頼性」を実現する通信技術である。あたかも、ばけつリレーのように、無線端末の間を次々とデータを移動させることで、1つのデータ収集局(親機)でカバーできる通信範囲を広げることができる。ある範囲の無線ネットワークを構築しようとしたとき、親機の数を従来に比べて減らせるため、コスト抑制につながる。さらに、電波環境の悪い領域を回避するようにマルチホップの中継経路を設定することで、いわゆる「電波の不感地帯」を解消し、データ伝送の高信頼化にも貢献する。伝搬損失のなるべく少ない経路を選択するマルチホップ・アルゴリズムに、各社の独自性が出ることになる。

*4)2011年12月には、920MHz帯の一部の周波数チャネルが利用可能になり、さらに送信出力が10mW制限から、20mW、250mW(簡易無線局)に緩和されていた。2012年7月25日には、これに加えて全ての周波数チャネルが利用可能になる。

OKI、独自技術で高い耐障害性を実現

 OKIは2011年9月に、スマートコミュニティーやスマートユーティリティネットワークを対象にした、920MHz帯の無線マルチホップ通信システムを国内で初めて開発したと発表した。実験局免許を取得し、実証実験を行った結果、出力電力が250mWのときの通信範囲は10km、障害物の多い市街地においても送信出力が70mWのときに半径150mの範囲で通信できることを確認した。規模としては、1台の基地局(親機)に対して実機で300台(シミュレーション上では1万3000台)規模だという。

左は、OKIが業界で初めて開発した920MHz帯のマルチホップ通信対応の無線端末。右は、通信システム事業本部 新事業推進室 担当課長の橋爪洋氏(左)と、ビジネスイノベーション推進部 スマートコミュニティイノベーションユニット ユニットマネージャー兼、ZigBee SIGジャパン 常任理事/アプリケーションWGリーダーの福永茂氏(右)。920MHz帯マルチホップ通信の開発や、ZigBee Allianceでの活動を担当している。

 同社の無線システムの特徴は、独自技術を盛り込むことで、大規模、高い耐障害性、低消費電力といった920MHz帯のマルチホップ通信の利点をさらに引き出していることだ。同社のマルチホップ通信システムでは、ある端末の周囲に存在する端末の状態に応じて、どの端末にデータを送ると「コスト」が低くなるかという情報を端末同士がやりとりし、ネットワークの経路を自律的に構成する。

 ここでいうコストとは、パケットロス率や電界強度といった通信品質に関連した指標を総合的に数値化したもの。コストをどのように設定するかという点に、同社のノウハウがあるという。全体的なコストが下がるように経路を動的に選ぶようにすることで、耐障害性が高く、通信範囲の広いネットワークを構築できるという。例えば、伝搬路に障害物があり損失が大きくなったときには、損失の少ない経路を自動的に設定する他、基地局に何らかの障害が発生したときには、端末がデータを送る相手を隣接の基地局に動的に切り替えるという仕組みも用意した。

OKIが開発した920MHz帯マルチホップ無線対応モジュールの概略(左)と運用管理ツール(右)。 出典:OKI

 これまで、マルチホップ通信では、端末の導入初期段階では端末の設置数が少ないために、中継経路が不足し、ネットワークの通信が安定しないという懸念があった。同社のシステムでは、端末の物理的な設置間隔に応じて自律的に出力電力を調整する機能も搭載した。これによって、導入初期段階から安定した無線ネットワークを構築できるようになった。

 IEEE 802.15.4のMAC層拡張・修正規格であるIEEE 802.15.4eに追加された低消費電力化技術に対応したことも特徴だ。従来のZigBeeのマルチホップネットワークでは、端末から複数のルータを介して親機に情報を送るとき、中継器となるルータはスリープ状態に入れなかった。新たな低消費電力技術を採用すれば、ルータもスリープ状態に入ることができ、システム全体の消費電力を引き下げることが可能になった。

OKIが920MHz帯マルチホップ通信の活用を想定している用途。屋外、屋内問わず、多様な無線ネットワークに展開する計画だ。出典:OKI

OKIが920MHz帯マルチホップ通信の活用を想定している用途(続き)。出典:OKI

 OKIの無線システムが対象とする用途は、スマートメーターのデータを無線で収集するスマートユーティリティーネットワークの他、スマートハウスやM2M(各種機器のネットワーク管理)、自治体メッシュネットワーク、広域センサーネットワークと幅広い。同社は、920MHz帯の端末用無線通信モジュールや、端末からデータを集める基地局、サーバ、運用管理ツールなどを組み合わせ、無線ネットワークシステムとして販売する計画だ。920MHz帯が全面的に開放される2012年7月25日以降、順次提供をスタートする予定である。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る