太陽光を無駄なく使う、201X年の技術:エネルギー技術 太陽電池(2/5 ページ)
再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度が始まり、太陽電池は激しい価格競争に入っている。このようなときこそ、太陽電池の高効率化を忘れてはならない。なぜなら、変換効率を高めることが、低システムコスト実現に役立つからだ。変換効率向上に対してどのような手法が有望で、どこまで高められるのか、解説した。
材料を変えても限界を破れない
半導体の種類によってバンドギャップの値は決まっている。そこで最適なバンドギャップを持つ半導体を選べばよいように思える。しかし、この戦略はうまくいかない。小さなバンドギャップをとる半導体を選ぶと、赤外線を電力に変えられるが、高いエネルギーを持った光を受けたときに無駄が生じる。いくら高いエネルギーを受けても、バンドギャップ分しか取り出せないからだ。
大きいバンドギャップを持つ半導体なら例えば青色光のエネルギーを無駄なく取り出せるが、赤色光のエネルギーを全く取り出せない*3)。
*3) バンドギャップが小さいときは取り出せる電流密度は増えるが電圧は低くなり、バンドギャップが大きいときは電圧は高まるが電流密度が減るという関係がある。
太陽光はさまざまなエネルギーの光子を含んでいる。高いエネルギーを帯びた光子(波長の短い紫外線や青色光)から、低いエネルギーを帯びた光子(波長の長い赤外線や赤色光)までさまざまだ(図1)。太陽光のスペクトルから計算すると、1.4eVの半導体が最も効率的だ。これはGaAs(ガリウムヒ素)のバンドギャップに近い。このため、変換効率の記録でもGaAsは28.3%と、単結晶Siよりも高い値を達成できている*4)。
*4) 米Alta Devicesが薄膜GaAs太陽電池セルを用いて2012年5月に発表した値。セル面積は4cm2。自然な太陽光に近いAM(Air Mass、太陽光が大気層を通過する距離を示す)1.5条件で測定した。
図1 太陽光のスペクトルとSi太陽電池の特性 太陽光スペクトル(赤色線)の形状と単結晶Si太陽電池の感度(青色線)の形状は異なる。太陽光スペクトルが滑らかではないのは、大気中の物質などによって吸収を受けているためだ。出典:バテルジャパン
既に1961年の時点で、1種類の半導体材料だけを使う太陽電池には、変換効率に上限があることは分かっていた*5)。単結晶Siなど、1種類の半導体だけを使うと、どの光子からも同じ量のエネルギーしか取り出せない。さらに、ある値以下のエネルギーを帯びた光子(赤外線など)は無駄になる。高いエネルギーを帯びた光子からは大きなエネルギーを、低いエネルギーを帯びた光子からは小さなエネルギーを得る手法が必要だ。
*5) ショックレー・クワイサー(Shockley-Queisser)限界として知られている。どのような半導体を用いても32.7%を超えることができない。W. Shockley and H. J. Queisser: J. Appl. Phys. 32 (1961) 510.
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