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「高周波シミュレータがあれば設計できる?それは錯覚」、アイラボ市川氏が語る無線通信技術

高周波回路の設計に使うシミュレータは近年、高機能・高性能化している。実際、高周波にそれほど詳しくないエンジニアでも、見よう見まねで回路を入力し、最適化処理を実行すれば、それなりの特性が得られる。「しかしそれは“回路設計”ではない。単なる“シミュレーション作業”だ」。アイラボラトリーの市川裕一氏はこう指摘する。

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 「シミュレータさえあれば、誰でも高周波回路の設計ができる。近年のシミュレータの高機能・高性能化によって、そんな錯覚が芽生え始めているようだ」――。高周波設計のベテランエンジニアである市川裕一氏は、高周波設計ツール「Microwave Office」のベンダー米Applied Wave Research(AWR)の日本法人AWR Japanが2012年7月6日に東京都内で開催した技術イベント「AWRデザインフォーラム 2012」で講演し、このように指摘した。

 市川氏は、高周波/マイクロ波回路設計のコンサルティングや受託開発などを手掛けるアイラボラトリー(I-Laboratory)で代表を務めるベテランエンジニアだ。高周波回路設計に関して複数の著作があるほか、1990年代からWebサイトで高周波回路設計の基礎知識を無償で公開しており、国内の高周波回路設計コミュニティで良く知られる人物である。

ユーザーの知識・経験が伴ってこそツールは生きる

 同氏の今回の講演タイトルは「高周波/マイクロ波回路シミュレータの有効活用」。シミュレータをツールとして有効に活用するには、高周波に対する知識と経験が不可欠だという趣旨の講演である。

 まず同氏は、高周波回路シミュレータを使う上での問題点・注意点として、“回路設計”と“シミュレータの操作”は同義ではないと指摘した。

 AWRのMicrowave Officeなど、現代の高周波回路シミュレータは高機能化が進んでおり、設計者を支援するさまざまな機能を備えている。例えば、目標仕様に応じて、回路中の部品定数を最適化するオプティマイズだ。「文献や教科書に載っている回路を見よう見まねでシミュレータに入力し、オプティマイズを実行すれば、仕様を満たす回路が出来上がる。しかし、それは“回路設計”ではなく“シミュレータの操作”であり、それができるだけでは“設計者”ではなく単なる“シミュレータのオペレータ”である」(同氏)。

図1
高周波回路の“設計”において土台となるのは、まず高周波の基礎知識、次に部品情報と設計経験である。シミュレータは、それらを活用して回路を設計するための“単なるツール”だ。出典:アイラボラトリー (クリックで画像を拡大)

 このように指摘した上で市川氏は、「ユーザーに高周波回路設計の知識と経験が伴わなければ、シミュレータを使っても設計のスピードと効率の改善は望めない。知識・経験が伴ってはじめて、シミュレータを有効活用でき、必要最小限のシミュレーションで回路を設計できるようになる」と述べた。

 知識・経験の具体的な要素としては、次のように説明した。知識については、分布定数や反射、波長、スミスチャート、Sパラメータ、基板材料、インピーダンス整合回路、伝送線路といった、高周波回路独特の考え方や設計手法の基礎をきちんと理解しておくことが重要だという。

図2
基礎知識としては、高周波回路独特の考え方や設計手法を習得しておく必要がある。出典:アイラボラトリー (クリックで画像を拡大)

 経験については、整合回路の設計経験が特に重要だと指摘した。「整合回路の設計経験は、とにかく数をこなすことが必要。スミスチャート上にプロットした点から、所要の整合を得るためにその点をどういう軌跡で動かせばよいか、そのためにどういう回路構成を採るべきか。それをイメージできるようにしておきたい」(同氏)。なお、整合回路の設計経験を積むための題材は、物理的な部品を組み合わせた実際の回路基板に限らないとしており、高周波回路シミュレータ上で仮想的な設計経験を重ねて“数をこなす”ことも有効だと述べた。

 さらに同氏は、高周波回路を構築するための部品について、設計に使える実用的な情報を入手・活用できる経験も重要だとしている。例えば基板材料では、一言で「FR-4(ガラスエポキシ)基板」といっても、メーカーが違うと誘電率などの特性も異なるため注意が必要だ。部品メーカーがシミュレーション用に提供するSパラメータやSPICEパラメータのモデルライブラリについても、メーカーや品種ごとに測定時の条件が微妙に異なったりするため、場合によってはシミュレーション時にその差異を考慮する必要があるという。

図3
高周波回路の設計には、部品の情報が欠かせない。ただ、受動部品でも能動部品でも、メーカーが提供する情報をそのまま使うだけでは、場合によっては設計のスピードや効率を十分に高められない可能性もある。出典:アイラボラトリー (クリックで画像を拡大)

設計だけじゃない高周波回路シミュレータの使い道

 最後に市川氏は、高周波回路シミュレータの有効な使い道として、大きく4つの方向性を示した。1つはもちろん、高周波回路を設計するためのエンジニアリングツールである。

 残る3つは、未経験のさまざまな回路の設計をコンピュータ上で試せる「仮想経験を積むためのツール」、新しい回路の方式を考案した際に、手早く短時間でその効果を検証したり問題点を把握したりできる「アイデアを試すツール」、回路の動作やパターンを利用した高周波部品の振る舞い、インピーダンス整合などを学ぶための「学習ツール」である。

図4
高周波回路シミュレータには、「設計ツール」の他にも有用な使い道がある。出典:アイラボラトリー (クリックで画像を拡大)

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