狙うはLTEやLTE-Advanced、まだまだ進化するアンテナ技術:無線通信技術 アンテナ設計(1/2 ページ)
KDDI研究所は、ワイヤレス・テクノロジー・パーク2012で、最先端の携帯通信方式であるLTEや、次世代のLTE-Advancedをターゲットにしたアンテナ技術を紹介した。
KDDI研究所は、最先端の携帯通信方式「LTE(Long Term Evolution)」を対象にしたアンテナ適応制御技術や、次世代の「LTE-Advanced」を対象にした基地局向け小型アンテナ技術を開発し、2012年7月5〜6日にパシフィコ横浜で開催された「ワイヤレス・テクノロジー・パーク2012」に参考出品した。
前者のLTEを対象にしたアンテナ適応制御技術は、スマートフォンを手で握ったときに発生してしまう受信感度の劣化を防ぐことを目的に開発された。かつて、Appleのスマートフォン「iPhone 4」の受信感度が、本体の握り方によって低下してしまい、極端な場合、通話中に通信が途切れるという現象が取りざたされたことを覚えている方は多いかもしれない。
スマートフォンを握ると、人体による電磁界的な影響によって、内蔵アンテナのマッチング(整合)がずれてしまう。マッチングとは、最も高い効率でアンテナから電波を放射したり受信したりできるように、アンテナとそれ以外の回路のインピーダンスをあらかじめ一致させておく作業のこと。マッチングがずれると、例えば受信時には受信感度が低下し、その状態で通信特性を維持しようとするとより大きな消費電力が必要になってしまう。
人体によるアンテナ特性への悪影響は、昔から知られていた現象だった。ただ、LTE方式では複数のアンテナを使ってデータをやりとりする「MIMO」技術を採用するため、人体による悪影響を抑える重要度が増すという。例えば、2つのアンテナを内蔵するケースでは、スマートフォンを握ったことによる影響を2つのアンテナそれぞれに与えてしまうわけだ。
そこでKDDI研究所では、このような人体によるインピーダンス不整合の問題を解決するために、デジタル的にキャパシタンス値を変えられる可変容量回路を採用した。インピーダンスの不整合が発生すると、キャパシタンス値を動的に変えて、マッチングした状態に戻すという仕組みだ。可変容量回路を使うこと自体は新しくないが、「これまでの可変容量回路は挿入損失が大きいという課題があったが、最近になって挿入損失が小さいデバイスが開発され、実用に耐えられるようになってきた」(KDDI研究所)という変化があるという。
その上で、同研究所が開発した適応制御アルゴリズムには、2つの特徴がある。1つは、端末から基地局へのデータ通信(上り)と基地局から端末へのデータ通信(下り)に異なる周波数を使う「FDD-LTE」に対して、上りと下りの通信全体として特性が向上するように最適化したこと。FDD-LTEでは、上りと下りで周波数が異なるため、上り周波数に合わせると、下り周波数にマッチングされていないことになる。どちらかの周波数にマッチングさせるのではなく、全体として通信特性が向上するように最適化した。もう1つの特徴は、複数のアンテナを使って総合的にデータをやりとりするMIMO処理の特性も考慮して、マッチング状態を制御することである。
通信に利用する周波数が1.4G〜1.5GHzのとき、スマートフォンを握ったことによるアンテナの共振周波数に与える影響は比帯域で最大10%程度で、この変化を補償することができる。受信時のMIMOスループットを最大で20%改善、送信電力が10%低減することを確認した。開発したアンテナ適応制御技術を実装する際には、LTEチップセットへの変更は不要で、可変容量回路と制御回路を追加することで実現できるという。
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