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―実践編(パラダイムシフト)――技術英語はプログラミング言語である「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(6)(4/4 ページ)

本来、「言語」とは「人間相互理解」の道具であり、「民族」という単位のポピュラーな指標であり、「文化」という荷物を過去から未来へ運ぶリヤカーのような役割もあります。しかし、「技術英語」には、そのいずれの機能もありません。「技術英語」が、言語でなく、「英語」の下位概念ですらないとすれば、それは一体何でしょうか。「技術英語」とは、「図」を構成要素とする「プログラミング言語」です。

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 日本語の例文でイメージしてみましょう。

例1

誤:「その回転数の変化を検知する、まさにその装置こそが、このデバイスである」

正:「このデバイスは、回転数の変化を検知する装置である」

例2

誤:「この仕様書を具現化し、未来のスマートグリッド社会を創成させることで永遠の繁栄が約束されるのである」

正:「この仕様書は、スマートグリッドを実現する手段の1つを記載するものである」

 このルールで理解できない文章があれば、それはあなたではなく、文章を作成したヤツが悪いのです。技術英語は、プログラミング言語だと申し上げました。読みにくい技術英語とは、バグがたんまり仕込まれたプログラムコードであり、そのようなプログラムコードを書くエンジニアの文章など、読むに値しません。どうせ、内容も的外れなものでしょう。

技術英語における「前置詞」と「助動詞」とは!?

 「B」と「C」が決まれば、あとは、前置詞という接着剤でくっついた形容句や、動詞の回りにまとわりついている助動詞を読み取れば足ります。ちょっと面倒なのは、関係代名詞で入れ子になっているフレーズですが、それでも、私の知る限り、図7に示す以外のパターンが出てくることは、まずありません。もし出てきたら諦めても構いません。

 前置詞というのは、要するに「B」という技術英単語に、アクセサリーとか眼鏡とか衣服のような付随物を「くっつける」道具です。ということは、前置詞の後ろは読まなくても、文意に大きく影響を与えません。関係代名詞の後の文脈も、思い切ってバッサリと読み飛ばしても良いでしょう。大切な内容であれば、著者は、独立したセンテンスとすべきだったのです。関係代名詞なんぞを使って手を抜いた著者が悪いのであって、私たちの責任ではありません。このような「割り切り」で、リーディングの時間は半分以下になるはずです。

図
図7 述語と前置詞、動詞と助動詞の関係

 一方、助動詞ですが、皆さんには信じられないかもしれませんが、技術英語として使われている限り、助動詞は全て同じ意味として使われます。基本は「なんとかしてね、お願い 」です。ただ、「must」は、あなたに「銃を突きつけて」お願いしているのに対して、「may」は、「空を自由に飛びたいな〜♪」と歌っているドラえもんののび太がするようなお願いになっています。お願いの必死さが 「must」→「shall」→「will」→「can」→「may」の順番で弱くなっていると考えれば十分です。日本語に翻訳しなければならない場合は、あまり気にしなくてもよいでしょう。

「技術英語」は最終的に一枚の絵を描ければ足りる

 ではまとめます。(1)技術英語は、図面を記述するためのプログラミング言語であり、(2)そのプログラムコードをコンパイル(翻訳)するあなたは、3つの技術英単語(リーディングの場合は2つの技術英単語)を発見することがメインのタスクで、(3)前置詞や関係代名詞以下のセンテンスは、面倒ならスキップしてもよく、(4)助動詞は、単なる「お願いの気持ち」として理解して、(5)最終的に一枚の絵を描ければ足りる、ということを理解していただけたでしょうか。

 英語翻訳エンジンが、技術英語の分野で比較的使いものになっていることは、技術英語がプログラミング言語であることの一つの証拠になると思います。しかし、プログラミング言語である以上、それは人間が読んでいて楽しいものではありません。プログラムリストを見ながら笑っている人がいたら、それは不気味な光景です。私の知る限り、過去に一人だけいましたが、その後、風の便りで「心の病が原因で離職された」と聞いております。

 それはともあれ、楽しくないなら、手を抜く必要があります。これについては、「文献調査編」で説明します。念のため繰り返しますが、今回の「技術英語=プログラミング言語」は、技術分野だけに適用可能な概念です。間違っても、この考え方を、時事問題や文学の分野に適用しないようにお願いします。「まぜるな!危険!」と表記された漂白剤よりも、危険なことが起こるかもしれません。

 次回は、このプログラミング言語を翻訳する側である、「私たち自身の改造方法」についてお話します。



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Profile

江端智一(えばた ともいち) @Tomoichi_Ebata

 日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。

 意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。

 私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「江端さんのホームページ」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。



本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。



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