「SiC」と「GaN」、勝ち残る企業はどこか?(後編):知財で学ぶエレクトロニクス(2)(3/4 ページ)
前回はパワー半導体の次世代材料であるSiCとGaNのウエハーに注目し、企業ごとの開発動向を知財の観点から説明した。今回は、国や地域ごとに状況を解説した後、特に日本企業の特許出願状況を分析する。技術者が自ら特許情報を検索する手法についても紹介しよう。
出願人別GaNウエハー関連日本公開系特許出願の動向
先に出願件数の増加が始まったGaN関連のウエハー特許について、日本公開系特許の出願件数の推移をまとめました。
図4に、1985年から現在までの期間における、GaNウエハー関連の日本公開系特許の累積出願件数が多い20出願人(企業および個人)の特許出願件数推移を示しました。
図4の出願人名には、パナソニックやシャープなどGaNウエハーに取り組む企業以外の企業名が見受けられます。これは今回の分析対象とすべき特許群作成の難しさを示唆しています。
住友電気工業や日立電線、三菱化学などの各企業は、GaNウエハー供給事業を自社の新規事業と位置付けている企業であり、出願年から見た技術開発の着手時期はいずれも2000年以降と推察されます。住友電気工業と日立電線の事業化意欲は特許出願件数動向にも明確に現れています。
出願人別SiCウエハー関連日本公開系特許出願の動向
GaNウエハーと同様、出願人別に、SiCウエハー関連の日本公開系特許件数の推移を追ってみましょう。
図5には、1985年から現在までの期間における、SiCウエハー関連の日本公開系特許の累積出願件数の多い出願人(21出願人)の特許出願件数推移を示しました。
図5からは経済状況に翻弄(ほんろう)された状況が読み取れます。1997年のタイから始まり、1998年から1999年にかけて、世界に波及した経済危機*9)で、技術開発意欲の第1波の波が引き去り、その後に第2の技術開発の波が押し寄せ、技術開発の加速化が図られていると考えられます。そして、第1と第2の波の間に事業化を断念した企業もあれば、SiCウエハー事業参入を狙って新たに技術開発を開始した企業もあります。
*9) これをアジア通貨危機と呼ぶ。1997年にタイから始まったアジア各国の通貨下落危機により、韓国をはじめ各国に経済危機が起こった。日本では、1997年と1998年に金融危機が起こり、1998年のロシア財政危機、1999年のブラジル通貨危機へと続く、世界的な経済混乱となった。韓国1997年IMF危機としてもよく知られている。
自動車用途を狙うトヨタグループ(デンソー、トヨタ自動車、豊田中央研究所)は、ウエハーも含めてパワー半導体に取り組んでいることが分かります。そして、新日本製鉄やブリヂストン、住友電気工業が積極的に取り組んでいることも分かります。昭和電工の出願特許件数の少なさは、産業総合研究所(産総研)からの技術転移によって事業をスタートしたためであり、自社技術としての成熟度の高まりと共に、特許出願件数は今後増加すると考えられます。
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