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―実践編(パラダイムシフト)―入出力装置という「機械的な私」の作り方「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(7)(3/3 ページ)

私たちが到達すべき「To be像」は明確です。私たちは、技術英語というプログラミング言語をコンパイル(翻訳)する、1つの「電子計算機」になるのです。ここで最も大切なことは、1つの機械となった私たちは、理解できない技術英語に対して「Syntax Error(シンタックスエラー)」と応答しても良い、ということなのです。

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足りない英単語は、一時的にRAMに格納

 では「焼き込む」内容は、この2冊で必要十分なのでしょうか。足りるわけがありません。英語が表現する全世界を2冊程度の本でなんとかなるなら、そもそもこの連載は始まっていません。

 技術分野ではどうしょうか。下図に示した通り、いわゆる「技術英語」の分野は確かに小さいのですが、上記の2冊で完全には網羅できません。ところが、技術英語の英単語は、ROMに焼き込む必要がないのです。なぜなら、必要な技術英単語は、覚えるだけ無駄で、必要な時に辞書を引いて、一時的にRAMに格納すれば十分だからです。

図
技術英語が対象とする範囲は非常に狭い

 例えば、ある技術の標準化仕様書の場合、新規に登場する動詞の数は一桁を超えませんし、専門用語が汎用的に登場するわけでもありません。技術英単語は、結局のところ、辞書を引く、会話の相手に教えてもらうなど、その場で覚えるしかありません。そしてそれが終ったら、とっとと忘れてしまって良いのです。

 上記の手段を尽しても、なお対応できない英語に対して、どうすればよいか。答えは簡単です。相手に「諦めてもらう」のです。私は、ROM領域に焼き込まれていない語彙(ごい)やフレーズ、シンタックスは理解できません。私にできることは、ただ1つ。「Syntax Error」と応答することだけです。

図
写真はイメージです

 会話においては「Sorry, I couldn’t understand what you said now. May I ask you to say that again?(申し訳ありません。何をおっしゃったのか私には理解できておりません。もう一度お願いできますか)」 を何度でも、何度でも、何度でも繰り返す。つまり、「Syntax Error」であると、相手に対してアウトプットし続けるのです。そのうち、相手がため息をつきながら、質問を諦めてくれます。

―― 私が悪いのではない。私を理解することなく、私の性能を超えるコマンドを入力するあなたが悪い。私としては、「私」のスペック表とマニュアル(事前の打ち合わせ資料の送付など)をちゃんと送付したはずだ。それを読み取れなかった「あなた」に責任がある ―― と、このパラダイムに到達するのに、私には10年近い歳月が必要でした。

ハードウェアスペックに合った戦略を!

 では、まとめます。私たちは、技術英語というプログラミング言語をコンパイル(翻訳)する、1つの「電子計算機」になりましょう。

 「英語に愛されないエンジニア」のハードウェアのスペックは貧弱です。私たちは、持って生まれたCPUや記憶容量を超える処理はできないのです。貧弱なハードウェアの上に、どんな優れたソフトウェア(各種の英語教材や、英会話クラスでの勉強)を乗せても、それがオーバースペックであれば、動く道理がありません。

 例えば、5年前のPCで、最新バージョンのWordやExcelを動かすことは無謀です。10年前のPCに、最新のWindows OSをインストールしようにも、HDDの容量は足りず、下手をするとドライブがないかもしれません。こんなことはエンジニアの皆さんには自明のことでしょう。そもそも、最初から英語専用のプロセッサを具備して生まれてきた「英語に愛されるエンジニア」と勝負になるはずはないのです。これは議論の余地のない、自明な自然法則です。自然法則に逆らうことはできないのです。

 さて、「10の実践編」の(1)パラダイムシフト編は、ここまでです。次回は、(2)文献調査編と、(3)資料作成編について、お話しします。それでは、来月再びお会いしましょう。



本連載は、毎月1回公開予定です。アイティメディアIDの登録会員の皆さまは、下記のリンクから、公開時にメールでお知らせする「連載アラート」に登録できます。


Profile

江端智一(えばた ともいち) @Tomoichi_Ebata

 日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。

 意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。

 私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「江端さんのホームページ」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。



本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。



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