技術の使い回しでは勝てない:米International Rectifier 高橋敏男氏(4/5 ページ)
欧州、中国、インド、日本。これらの地域に共通する課題がある。機器の消費電力削減だ。欧州は省電力に関する法制化が進み、中国は政府によるインセンティブが実施されている。インドはやむにやまれぬ電力不足が背景にある。日本はいわずもがなだ。半導体企業ができることは何か。パワー半導体に取り組むほとんどの企業は「技術の使い回しが目立ち、問題解決の方向に向かっていない」――こう主張するのは米International Rectifierのベテラン技術者だ。
MOSFETかIGBTか、それともGaNなのか
EETJ インバータを使う機器はさまざまであり、出力も違う。IRは現在、どの程度の出力の機器を狙っているのか。
高橋氏 現状の当社のIPMのラインアップと合わせると、3kWまでカバーできる。ここが大量に需要がある市場だからだ。
IPMを使うどのようなアプリケーションがあるのか。欧州はポンプが中心であり、家庭に1台はポンプがある。食洗機のドレインポンプや排水ポンプ、スプレーポンプなどであり、出力は30〜80Wだ。アジアはエアコン用ファン、室内機、室外機、洗濯機用のポンプだ。日本はエアコンのインバータ化が既に進んでいるため、空気清浄機のファンやダクトのベンチレーションファンが対象となる。
EETJ これらの市場の需要を満たすと、IPMの改善は一段落するのか。
高橋氏 まだまだIPMを適用できる新市場が残っている。今後は出力密度が上がるだろう。このような要望を満たすために、当社はGaN(窒化ガリウム)スイッチなどの半導体技術を開発済みだ。
今回のパッケージとGaNを組み合わせると何ができるか。300〜400Wのアプリケーションを狙うことができる。実は300〜400Wというのはモーター制御の領域で、ギャップとなっており、業界内に最適なソリューションがない。200W以下なら他社がDIPで製品化しており、当社のμIPMでももちろん可能だ。
IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を使ったモジュールはどうか。確かにIGBTであれば6A級の品種も利用できるが、パッケージが高価だ。IGBTのもう1つの欠点は、飽和電圧(VCE)に課題があること。全負荷の状態ならIGBTが有利だが、当社が狙う低負荷のアプリケーションの場合は変換効率が落ちてしまう。低負荷であれば、IGBTよりも当社が製品化しているファストリカバリダイオードとMOSFETを集積した「FredFET」の方がまだ適しているが、FredFETで300〜400Wの領域を狙うと、SuperJunction構造のMOSFETが必要になり、コストアップ要因になってしまう。
300〜400Vに適した製品をこれまでどこのメーカーも投入してこなかった。これはIPMのパッケージと同じ構図だ。近視眼的に投資回収率を考えると、既存の技術の流用でなんとかしのぐことになる。当社はGaNを適用することで革新し、この領域も埋めていく。
そしてセンサーやマイコンとの融合へ
EETJ インバータを利用する機器が必ずしも100%出力で動いていないとすると、IPM側にもまだ工夫の余地があるのではないか。
高橋氏 革新できる部分は多い。いままでのパワー系の設計を振り返ってみると、ファンなりポンプなりのアプリケーションを設計する技術者は、ワーストケースを考えている。周囲温度が55℃や60℃になったときのことを前提に設計する。放熱の関係から電流がこれだけしか取れない、そういう設計だ。
では実際に機器が動いているときはどうなっているのか。冷蔵庫であれば、最初に電源を入れたときは設定温度に達するまで100%の出力で動く。だが、その先は24時間のうち、23時間以上、出力10%の領域で動く。ファンにもそういう傾向がある。ファンが全負荷で24時間動いていると言うことはあり得ない。エアコンを使えば分かるが設定温度に達した後はファンが緩やかに回るだけだ。つまり9割程度の運転時間はワーストケースの設計と合わない。無駄になっている。
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