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コンセプトメイキングを若手育成の場に、“魂が宿るモノづくり”を目指すいまどきエンジニアの育て方(12)(1/2 ページ)

開発プロセス。そこには“設計”だけが含まれるのでしょうか。製品のコンセプトを練る段階も開発プロセスの一部と考え、新人や若手をコンセプトメイキングに積極的に参加させている企業があります。こうすることで、“エンドユーザーを意識したモノづくり”ができるエンジニアを育て上げているのです。

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「いまどきエンジニアの育て方」連載一覧

 今回は、設計開発だけを行うことがエンジニアの成長のためになるのかという観点から、若手エンジニアを、開発プロジェクトのどのタイミングから関与させていくかについて考えてみましょう。

製品の全体像が見えているか?

 これまでに何度か製品の複雑化/高機能化の話をしてきました(第4回第7回)。また、製品の複雑化などに伴い、開発部門のエンジニア一人ひとりの役割分担が細分化されていることにも触れました(図1)。


図1 複雑化・高機能化する製品と開発担当者の細分化(クリックして拡大)

 ハードウェアの部分に着目してみてみましょう。細分化の単位は、ボード単位、アナログ/デジタルなどさまざまです。デジタルにおいては、CPUや周辺回路の設計と、ASICの設計を別のエンジニアが担当する場合もあります。アナログにおいても、アンプ系の設計と電源の設計とでは、要求される知識や経験が異なります。また、最近の電源はデジタル化も進んでいます。同一ボードの中でも、アナログ部分とデジタル部分で担当者が分かれる場合すらあります。

 製品規模があまり大きくなく、開発現場にゆとりがあった時代は、アナログの経験を積むと、「じゃあ今度はA/D周辺をやってみるか?」 その次は、「CPU周りをどうだ?」というように、ステップバイステップで一通りの経験ができたものです。ですが、納期やコスト削減の要求に追われている現在の開発現場では、そこまでのゆとりがありません。結果的に、“自分の担当部分だけはよく分かるエンジニア”がどんどん出来上がります。考え方によっては、“専門性が高いエンジニア”が育つとも言えますが、気が付いたら、製品の全体像が分かるエンジニアは誰もいないということにもなりかねません。

 製品の複雑化、高機能化が進んでいるので、これは致し方ないところです。特に、若手エンジニアは、まずは自分が担当している部分の設計をとことん極めるくらいの気持ちで構わないと筆者は考えています。

 しかし、自分の担当箇所が、製品の中でどのような役割を果たすのかについては、きちんと知っておくことが重要です。次の例で見てみましょう。

命を守る小さな加速度センサー

 自動車が衝突した際に、運転者や同乗者の命を守るものとしてエアバッグがあります。自動車が衝突すると加速度センサーが衝撃を感知し、ハンドルや助手席ダッシュボード内に装備したエアバッグが一気に膨らみます。加速度センサーは原理や構造がシンプルで、自動車に搭載されている何万点もの部品の中では、非常に安くて小さな物です。しかし、車が衝突したときには、最初に衝撃を感知して動作しなければならないので、不良率ゼロが求められる、極めてシビアな部品の1つです。

 あるとき、自動車会社Aの下請けで、加速度センサーの製造に関わっている人から、「こんな小さな部品でも不良があったら命に関わることだから、絶対に手は抜けない」という話を聞きました。一方、同じ話を自動車会社Bの人にも聞いたところ、「この部品が何に使われるか分からないが、マニュアル通りに製造しているから問題ない」という答えが返ってきました。

 安全性、信頼性の面からみて、どちらのスタンスで製造することが、より望ましいかは言うまでもありません。後にB社の自動車は、衝突した際に衝撃をきちんと感知しないという理由で、リコールが出されました。ずいぶん昔の話です。

 A社とB社の技術力に大きな差があるとは思えません。ですが、A社の従業員は、自分たちが作っている製品がどんなところに使われるのか、つまり、製品の全体像が見えていました。扱う部品は小さくとも、何にどう影響するのかをきちんと把握して設計や製造に取り組んでいたのです。このように、自分が作る部品が、製品の中でどのような役割を果たすかを知っていることは、とても重要です。その製品の複雑な機能を全て理解しろと言っているわけではありません。自分が担当している部品が最終製品の中でどのような位置付けになるのか、それが見えていれば良いのです。

加速度センサーの話は、@IT自分戦略研究所 エンジニアライフの連載「プロセスコンサルティング」のススメ! バラバラエンジニアのプロジェクトマネジメント(2) 〜製品コンセプトと青写真〜(2011年11月2日)から抜粋し、加筆修正を加えたものです。



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