内耳を“電源”として利用、MITがインプラント型デバイスを開発:エネルギー技術 エネルギーハーベスティング
マサチューセッツ工科大学、ハーバード大学らの研究グループが、哺乳類の内耳を電源として利用することで、インプラント型の電子デバイスを駆動するというデモを披露した。内耳には音を電気信号に変換するための電圧を生成する仕組みが存在する。その電力の一部を流用して、デバイスを駆動することに成功したという。
米マサチューセッツ工科大学(MIT)、米ハーバード大学、ならびに両大学による共同医療科学技術部(Harvard-MIT Division of Health Sciences and Technology)の研究グループが、哺乳類の内耳を電源として利用することにより、インプラント(体内埋め込み)型の電子デバイスを駆動するというデモを披露した。
おすすめの関連記事はこちら!
もはやSFではない“サイボーグ”技術
米国の人気SFテレビドラマ「600万ドルの男」や「地上最強の美女バイオニック・ジェミー」の主人公達のように、人体の機能を電子機器によって代替する、いわゆる“サイボーグ”技術の実用化が進んでいる。⇒記事全文
内耳の中には、イオンで充たされた“チャンバ”が存在する。神経信号(電気信号)の伝達は、このチャンバ内で電圧を生成することによって行われているという。今回の研究では、この生体電池に焦点が当てられた。研究グループは、「今回のデモでは、生体電池を使うことにより、聴覚を損なうことなく、耳に埋め込まれた電子デバイスを駆動できる可能性を示すことができた」としている。
この生体電池の活用例としては、聴覚障害や平衡障害を持つ患者の耳の中の状態を監視することなどが考えられる。また研究グループによれば、将来的には、インプラント型の電子デバイスによって投薬や治療が行えるようになる可能性もあるという。
マサチューセッツ眼科/耳科病院(MEEI:Massachusetts Eye and Ear Infirmary)の外科医であるKonstantina Stankovic氏と大学院生のAndrew Lysaght氏は、モルモットの耳に電極を埋め込み、そこに低消費電力のモニタリング装置を取り付けることで、内耳の化学的なデータを外部の受信機に無線で伝送することに成功したという。Stankovic氏は、「この生体電池の存在は、60年も前から認識されている。また、それが正常な聴覚を維持する上で極めて重要な役割を果たすことも分かっていた。しかし、これまではこの生体電池を利用してインプラント型の電子デバイスを駆動するという試みが行われることはなかった」と述べている。
耳では鼓膜の振動が電気信号に変換され、その信号が脳によって処理される。電気信号への変換が行われる際には、内耳の「蝸牛(かぎゅう)」と呼ばれる部位が信号の電源として機能する。蝸牛は皮膜の一部の細胞によって分割されており、それらの細胞はイオンを送出する役割を担っている。皮膜を挟んで両側に存在するカリウムイオンとナトリウムイオンが不均衡であることから、電圧が生じるとされている。
研究グループによると、「聴力への影響を防ぐために、生体電池によって生成される電力のうち、デバイスの駆動に使用する分はごくわずかに抑える必要があった」という。そのため、MITのマイクロシステム技術研究所(MTL:Microsystems Technology Laboratory)が、インプラント型デバイスで使用する超低消費電力チップの開発を手掛けた。そのチップの制御回路を極めて簡素なものとすることで、デバイスによる電力消費量を低減したという。
MTLのAnantha Chandrakasan氏は、「このようなデバイスの開発は、実用化に向けての初期の取り組みにすぎない。しかし、今後開発が軌道に乗れば、人間が自身で生成した電力によってデバイスを駆動できるようになる」と述べている。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.