ラップ音楽で血圧を監視、米大学が体内埋め込み型MEMSセンサーを開発:センシング技術
将来的に、音楽はただ聴くだけのものではなくなるかもしれない。米大学の研究チームが発表した、音楽を利用して電力を得る医療向けの圧力センサーは、体内埋め込み型デバイスの発展に貢献すると期待される。
米インディアナ州のPurdue Universityの研究グループは、ラップ音楽の低いベース音を利用して駆動するインプラント(体内埋め込み)型のMEMS圧力センサーを開発したと発表した。
同センサーには、MEMS技術でカンチレバー(片持ち梁)が作り込まれており、音楽の周波数が200〜500Hzになるとそれが振動する。この振動から電力を生成し、キャパシタを蓄電することが可能だという。いわゆるエネルギーハーベスティング(環境発電)技術を利用するわけだ。
Purdue Universityの電子/コンピュータ工学およびバイオメディカル工学の教授を務めるBabak Ziaie氏は、発表資料の中で、「音楽の音響エネルギーは体内まで届くので、カンチレバーを振動させて圧力センサーを効率的に再充電することが可能だ」と述べている。
実際の動作では、音楽の周波数が適正範囲外になると、カンチレバーは振動を停止して、電荷を自動的にMEMS圧力センサーに転送する。同センサーはこの電力を使用して血圧を測定し、データを無線信号として伝送するという。周波数は楽曲のリズムで変化するので、蓄電とデータ送信を繰り返すことができる。
既存の体内埋め込み型デバイスは、電池を用いるタイプと、インダクタを利用したワイヤレス給電を使うタイプがある。しかし、前者は電池を定期的に交換する必要があり、後者はデータを外部に取り出すのが難しいという課題があった。そのため、今回の新技術は、さまざまなメリットを生み出す可能性がある。
今回Purdue Universityの研究グループが開発した体内埋め込み型のMEMS圧力センサーは、動脈瘤(りゅう)や、まひによる失禁といった疾患の治療に貢献すると期待されている。Ziaie氏は、「約1時間ごとに、血圧やぼうこう内圧をわずか数分間モニタリングするだけでよい」と述べている。このMEMSセンサーは、ぼうこう内圧や、動脈瘤によって損傷を受けた血管を監視することができる。現在は一般に、カテーテルプローブを体内に挿入する方法を採っているので、患者は数時間にわたってプローブを挿入したままの状態で病院内に待機する必要がある。
Ziaie氏は、「無線対応の埋め込み型デバイスであれば、体内に入れたままの状態にしておけるので、患者を自宅に帰しても血圧をモニタリングすることが可能だ」と述べている。
研究グループは今回、ラップとブルース、ジャズ、ロックの4種類の音楽を用いて試験を実施した。Ziaie氏によると、「最も適していたのは、ベースによる低周波数の音を多く含むラップだった」という。
今回の研究成果の詳細をまとめた論文は、パリで開催中の「IEEE MEMS Conference」(2012年1月29日〜2月2日)にて発表されるという。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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