赤外線の高速制御が可能なアンテナオンチップ、光信号処理向けに米大学が開発:無線通信技術
米ライス大学の研究グループは、空間光変調器(SLM)の機能を実現する“アンテナオンチップ(AoC)”を開発したと発表した。赤外線の高速制御が可能なこのデバイスを利用することにより、光情報処理システムの性能を桁違いに高められる可能性があるという。
米ライス大学の研究グループは2012年11月16日、空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)の機能を実現する“アンテナオンチップ(AoC:Antenna on Chip)”を開発したと発表した。これを利用することにより、光情報処理システムの性能を桁違いに高められる可能性があるという。同大学 電気/コンピュータ工学部 助教のQianfan Xu氏と同僚の研究者らは、2012年11月14日に、このAoCの詳細を明らかにする論文を電子ジャーナル「Scientific Reports」で発表していた。
Xu氏は、「このAoCは、汎用コンピューティングには適していないものの、スーパーコンピュータに匹敵するような電力を要する光処理タスクで活用できる可能性を秘めている」と述べている。また同氏によれば、「シリコンをベースとするこのAoCは、既存のCMOS工場で製造することが可能だ。しかも、動作速度が極めて高い」という。
ライス大学が開発したAoCは、センサーICや画像処理ICなどによく似たものである。ただし、3次元の“自由空間”において機能するという点で、旧来のICとは大きく異なる。
Xu氏は、「既存の技術では、光は2次元回路に接続された導波路に沿って伝搬する。そのため、光の活用範囲は2次元回路内に制限される。従来の2次元回路は、『同じ空間に存在する複数の光線は、互いに影響を及ぼすことなく伝搬する』という事実によって実現される『光が持つ強力な多重化能力』をうまく活用できていない」と指摘する。
一方、ライス大学が開発したSLMチップは、結晶シリコンで形成されたナノメートルスケールのリブ(肋骨状のもの)を中核とするものである。p型にドープされたシリコン平板とn型にドープされたシリコン平板がそれぞれ金属電極に接続されており、その間にリブによるキャビティ(空洞)が形成されている。リブの位置は、ナノメートル規模の摂動によって決定される。その位置に応じ、共振キャビティと入射光とのカップリングが行われる。
ライス大学の研究グループが開発したAoC。2つの電極間に結晶シリコンで形成したリブが配置されている。このチップの本質はSLMであり、キャプチャした赤外線を高速で制御することで、光信号処理などのアプリケーションを実現できるという。
このカップリングにより、入射光がキャビティにキャプチャされることになる。赤外線だけはシリコンを通過するのだが、SLMがキャプチャした赤外線に対しては、チップの反対側に通過する際に制御を加えることができる。具体的には、電極間の電界によって、転送のオン/オフを高速で切り替えることが可能になる。
Xu氏は、「従来型のSLMは光システムにおける基本的要素の1つだ。そのスイッチング速度には限りがあり、中には、マイクロ秒のレベルのスイッチング速度しか得られないSLMも存在する。とはいえ、それらをディスプレイやプロジェクタに適用する分には特に問題はない」と述べている。ただし、そのようなSLMの速度は、「高度な情報処理を行いたい場合や、ピクセルごとにデータを厳密に扱いたい場合には、十分だとは言えない」(同氏)という。一方、Xu氏らが開発したAoCであれば、「10Gビット/秒を上回る速さで信号を変調でき、光情報処理システムの性能を桁違いに高められる可能性がある」(同氏)という。
Xu氏らは、このSLMを適用できる可能性のある用途として、画像処理やディスプレイ、ホログラフィ、計測、リモートセンシングなどを挙げている。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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