100円で小型組み込み無線モジュールを売る、その狙いを明かします:ガイアホールディングス 代表取締役 郡山 龍氏(2/3 ページ)
組み込みソフトウェアを手掛けるアプリックスが今、新たな事業として小型無線モジュールに注力している。各種機器に容易に組み込むことができ、簡単にM2M通信を実現できるモジュールだ。200円と安価で、近い将来に100円を切ることを目指す。業界では「そんなに安いのはおかしい」という声も上がっているという。そのからくりや狙いは何か。親会社であるガイアホールディングスの代表取締役で、モジュール事業を主導する郡山 龍氏に聞いた。
EETJ モジュール自体には利益をほとんど載せずに販売する。その狙いは何ですか。
郡山氏 世の中の全てのモノがネットにつながる。当社には、そうなったときに高い価値を生むソフトウェア技術があります。そこで稼ぎたい。そのためには、まず「全てのモノがネットにつながる」という世界を作らなければいけない。
例えば今、“スマート家電”などと銘打って、スマートフォンとの接続機能を備えた家庭用のエアコンや冷蔵庫や洗濯機などが製品化されています。節電につながることもウリの1つになっているようですが、電力の平準化を考えれば、家庭には他にも無視できない電力機器が数多くあります。寒い時期だったらこたつやパネルヒーターでしょうし、通年で使用するものもトースターやケトル、ヘアドライヤー、アイロンなど枚挙にいとまがありません。
でも、これらはどれ1つとして“スマート家電”化される気配がない。今、量販店では、アイロンが980円、こたつが3280円なんて値段で並んでいます。こうした低価格の民生機器をどうやってネットにつなげるか。言いかえれば、「全てのモノがネットにつながる世界」の実現を阻む障壁は何か、という問題です。それを調べていくと、やっぱりコストだと分かりました。
ネット接続機能を提供するモジュール自体のコストはもちろんですが、それだけではなく、機器メーカーがネット接続可能な製品を提供する際の“総コスト”を低く抑える必要がある。モジュールを組み込むために機器を改造する労力や、電波利用に関して当局の認証を取ったり、Android端末やiPhoneとの接続試験や認証を受けたりする労力も、総コストの一部として無視できません。
そこで当社のモジュールは、機器メーカーが既存製品に最小限の労力で簡単に組み込めるような工夫を施しています(参考記事)。
加えて、機器の部材コストを大きく押し上げてしまうのが、無線モジュールを制御したり、無線モジュール経由で外部に送るデータを処理したりするために新たに必要になるマイコンです。実例を挙げましょう。無線LANを搭載した体重計が製品化されていますが、それを実際に購入して分解してみたらARM 9コアのマイコンが入っていました。ARM 9は初期のFOMA端末が採用していたほどの性能を備えたCPUです。そんなものが体重計に入っている。今の時代、普通の体重計は数千円で買えるのに、これは3万円近い値段です。これじゃ「全てのモノがネットにつながる」なんて世界は無理ですよ。
当社の無線モジュールを使えば、機器側に新たなマイコンを追加せずにアプリケーションを構築することが可能です。従来であれば機器に搭載したマイコン上で実行していた処理を、無線モジュールの接続先であるスマートフォンが内蔵しているCPUを活用したり、さらにそのスマートフォンからインターネットを介して、クラウドサービスが抱えるコンピューティング資産を利用したりできるような仕組みを用意しました。
具体的には、スマートフォンのCPUで稼働する仮想マシンをライブラリとして提供しています。従来とは異なり、機器の内部を行き交う信号をマイコンで処理してから無線モジュールでスマートフォンに飛ばすのではなく、そうした信号をそのまま無線モジュールでスマートフォンに送って、スマートフォン側やクラウド側で処理する形です。
EETJ 最新品種のJM1L2は、Bluetooth Low Energy規格に対応した無線モジュールです。「製造原価にほぼ近い価格」だとしても、200円まで下げられるのは何かカラクリがあるのではないですか。
郡山氏 2つ理由があります。1つは、当社はモジュールの製造方法が旧来からモジュールを手掛けている他社とは大きく違う。もっとも、プリント基板を製造したり、そこに部品を実装したりといった工程については、エンジニアリングの世界で長い時間をかけて確立されており、他社と違いを出すことはできません。秘密はその後の工程にあります。ファームウェアを書き込んだり、テストをしたり、電波利用の認証を取るために特性を調整したり。詳細は明かせませんが、こうした工程を全部自動化してコストを非常に低く抑えられる手法を、ソフト屋ならではの発想で編み出しました。
もう1つの理由は、今は当社にとって先行投資の時期だと捉えているからです。
実は、家庭内のあらゆる機器にネット接続機能が搭載されるようになると、ある問題が浮上してきます。それは、家電とスマートフォン、あるいは家電とクラウドサービスを1対1でつなぐ旧来のピアツーピア接続では、解決できない問題です。当社はそれを解決するためのソフトウェアソリューションを確立済みであり、将来にそのニーズが顕在化したとき十分なビジネスに育つと見ています。
そのためにもまず、「全てのモノがネットにつながる」という世界の実現を加速しなければなりません。ですから無線モジュール自体については、普及を加速すべく戦略的に価格を低く抑えています。モジュールだけでは、絶対にお金になりません。稼ぐのはソフトウェアです。
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