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インタビュー

100円で小型組み込み無線モジュールを売る、その狙いを明かしますガイアホールディングス 代表取締役 郡山 龍氏(3/3 ページ)

組み込みソフトウェアを手掛けるアプリックスが今、新たな事業として小型無線モジュールに注力している。各種機器に容易に組み込むことができ、簡単にM2M通信を実現できるモジュールだ。200円と安価で、近い将来に100円を切ることを目指す。業界では「そんなに安いのはおかしい」という声も上がっているという。そのからくりや狙いは何か。親会社であるガイアホールディングスの代表取締役で、モジュール事業を主導する郡山 龍氏に聞いた。

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EETJ ピアツーピア接続で解決できない問題とは、何ですか。

郡山氏 まだあまり手の内を明かせないんですが……。例えば、こんなケースを考えてみてください。家中のLED電球をネット経由で制御できるようになりました。家族は全員スマートフォンを持っています。この家庭には他にも、PCやタブレットがあります。ところが、それらの複数の端末で、複数の人が家中の照明を同時に制御しようとすると、これは今のピアツーピア接続では対応できません。

 もう1つ例を出しましょう。エアコンが家族全員のスマートフォンにつながったら、どうなるでしょう。もし接続手段がBluetoothなら、これは方式として1対1接続ですから、お父さんのスマートフォンがエアコンにつながっているときは、お母さんは制御できません。今の技術では、「あなた接続切ってちょうだい」「分かった。はい、切ったよ」「ありがとう。じゃぁ私がつなぐわ」というやりとりになってしまう。

 それに、Bluetoothでも無線LANでも、エアコンなどある1つの制御対象に同時に接続できる端末の数には制約があります。大人数が勤務するオフィスのエアコンを全社員のスマートフォンにつなぐなんてことは、そもそも今の技術ではできません。端末のOSもやっかいです。例えば、メモリ不足でアプリが勝手に止まってしまうことがありますよね。では、そのアプリが何かを制御しているときにそうなってしまったら、どうすればよいのか。

 これらは問題の一部にすぎません。「全てのモノがネットにつながる」という世界には、今の時点では検討されていない問題がたくさん待っているんです。

「家電のオマケにアプリ」では消費者の支持は得られない

EETJ 2012年ころから機器メーカー各社が提案を始めた家電のスマートフォン連携は、少なくとも現時点では消費者の支持を得ているとは言い難いようです。

郡山氏 今、スマートフォンと連携する機器がいろいろ提案されている中で、市場で成功していない理由の1つは、スマートフォンのアプリを「機器のオマケ」として提供しているからでしょう。例えば洗濯機を使うのに、スマホのカラー液晶でボタンを押してメニューを選んでから、洗濯機にスマホを近接させてNFC通信でピッと設定を送る。ある芸能人はラジオ番組でこれに言及し、「洗濯機なんて普段、洋服を適当に放り込んで、洗剤をスプーン1杯、柔軟剤をキャップ1杯、それでスタートボタンを押すだけという使い方をしているのに、これはちょっとおかしい」と評していました。

 これは、まさしく現在のスマート家電が抱えている課題です。実際に今、当社の無線モジュールに家電メーカーや健康機器メーカーなどさまざまなメーカーが「こんなに安くスマホにつながるんですね」と興味を持ってくれるんですが、彼らはこう話すんです。「確かに、アプリックスが言うように、全てがネットにつながるという世界が将来は絶対やってくるでしょう。ですから我々の機器も、スマホやネットにつながなければなりません。でも、ネットにつないで一体何をすればよいのか……」。

 本当は、「スマホのアプリがまずあって、次に、それにつながる機器がある」という順番でなければ、消費者に訴求できません。

 例えば、コーヒー愛好家向けのスマホアプリがあります。コーヒー豆の種類といろんな焙煎の方法をアドバイスしてくれて、焙煎については手順も教えてくれる。何℃で何分間焙煎して、その後は何分間冷やして、さらに低目の温度で時間をかけて……といった手順です。ユーザーはそれを画面で見ながら実際にその通りに焙煎してみて、苦かったとかおいしかったとか結果をアプリにフィードバックするんです。

 一方で、そのアプリとは全く別に、焙煎用の機械も一般消費者向けに売られています。デジタルで温度を何℃、時間を何分と設定すると、後は自動的に焙煎してくれるという機械です。もしアプリがこの機械につながったら、設定から全てが自動になります。ユーザーはいろいろな豆や焙煎方法を試して、その結果が個人のノウハウになっていく。そのうち、「この豆なら、この設定を呼び出せばボタン1つで作れるな」となるわけです(参考記事)。

 実は当社は今、機器メーカーじゃなくてソフトウェアベンダーに売り込みに行っています。「あなたのこのアプリは、当社のモジュールを使うとこんな機器に簡単につながりますよ」と売り込むわけです。実際に当社がその機器を買ってきて、改造してモジュールを搭載し、それをソフトベンダーに見せる。興味を持ってくれたソフトベンダーは、自分のアプリに当社のライブラリを組み込んでみる。個人事業でアプリ開発を手掛けている方だと特に話が早くて、1時間かそこらで組み込んでしまいます。そうやって実際に機器につなげてみて、「これは面白い」となるわけです。そこで次はそれを持って機器メーカーを訪ねて、「あなたのこの機器は、このアプリにつながると、全く違った付加価値のある製品になるでしょう」と提案していきます。

 家電の市場を見ると今、付加価値競合がすごく激しい。誰でも作れるようになってしまったので、価格が安いだけの製品なら、スーパーでもホームセンターでも、中国製やベトナム製のノーブランド品がたくさん並んでいます。それらよりも高い付加価値をどうやって生み出せばよいのか。やっぱりアプリだと、当社は思っています。

 だからこそ、今は提供されていない、そうした機器とスマホをつなぐ物理的なインタフェースを、無線モジュールの形で用意する。そうして両者が簡単につながるようになれば、機器メーカー以外のソフトベンダーからいろんなアプリがどんどん出てくるようになる。機器メーカーは、アプリは機器の単なるオマケと位置付けるのではなく、魅力的なアプリに対して自社の機器が使えるという新しい付加価値を訴求できるようになる。機器メーカーにしてみれば、モジュールを組み込むだけで製品の価値を何倍にも高められるわけです。

 そしてもちろん、これは当社にも利益をもたらします。このような世界が出来上がれば、先に述べたように、当社は独自のソフトウェアソリューションでビジネスを展開していけるからです。

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