電子顕微鏡からのエネルギーで分子モーターを回転、米大学が発表【動画あり】:材料技術
米大学の研究チームが、長さ2nm、高さ1nmの分子モーターの動きを制御する技術を開発した。走査型トンネル顕微鏡の探針先端の電子から得たエネルギーで分子モーターを回転させる。量子コンピュータや医療の分野などで使用されるナノスケールデバイスへの応用が期待されるという。
米Ohio University(オハイオ大学)の科学研究チームは、分子モーターの動きを制御する画期的な技術を発表した。分子モーターを時計回り、反時計回りに動かすことができるという。将来的には、量子コンピュータを稼働させたり、動脈内の血栓を除去したりといった、あらゆる用途に利用できるナノスケールデバイスへの応用も期待できるとしている。
開発したのは、Ohio Universityで物理学と天文学の教授を務めるSaw Wai Hlam氏が率いる研究チームだ。今回の研究成果は最近、英国科学誌「Nature Nanotechnology」に掲載された。
研究チームは、走査型トンネル顕微鏡(STM:Scanning Tunneling Microscope)の探針先端の電子から得たエネルギーで、モーターの動きを制御できることを実証した。モーターは長さ約2nm、高さ約1nmで、金の結晶の表面に固定されている。
同チームが今回開発したモーターは、ボールベアリングとして機能する土台と、時計回り/反時計回りに回転する部分(以下、回転部分)から成る。土台と回転部分は、1個のルテニウム原子によってつながっている。回転部分は、鉄の原子でできた5本のアームで構成されている。また、分子モーターは、硫黄を利用して金の表面に固定されている。硫黄は“原子の接着剤”のような役割を果たしているという。
研究リポートによると、モーターは、−157℃まで温度を下げると熱励起によって自発的に駆動するという。−232℃まで冷却するとモーターの回転が止まる。電子エネルギーを与える場所を変えることで、モーターを時計回りまたは反時計回りに回転させることができるという。
Hlam氏は、「モーターの表面にエネルギー源を作り出すための電極を設置すれば、このモーターを基にした実デバイスを作製することも可能だ」と述べている。
なお、この科学研究チームには、シンガポール科学技術研究庁(A*Star)のChristian Joachim氏や、フランスの材料解析構造研究所/国立科学研究センター(CEMES/CNRS)のGwenael Rapenne氏も、リーダーとして参加している。
今後は、この分子モーターを応用して、より複雑な構成のデバイスを作製したいとしている。
Nature Nanotechnology誌のWebサイトでは、今回開発された分子モーターの動きをアニメーションで公開している(こちらをクリックすると、アニメーション映像をダウンロードできます。出典:F. Ample and C. Joachim)。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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