ITOを用いない透明電極の普及加速へ、まずは20〜30インチのタッチパネルに:材料技術
ITOに代わる透明電極の材料である「ClearOhm」を開発するCambrios Technologies。まずは、低コスト化という優位性が最もよく現れる20〜30インチのディスプレイで、ITOからClearOhmへの置き換えを狙う。
Cambrios Technologiesは、ITO(酸化インジウム・スズ)に代わる透明電極用の材料「ClearOhm」を開発するベンチャー企業だ。同社は2013年4月11日、日本法人のカントリーマネジャーとして村山隆志氏が就任し、ClearOhmを日本市場に積極的に売り込む体制を整えたことを発表した。まずは、「ITOに対するClearOhmの優位性を最も発揮できる」(同社)とする、20〜30インチのタッチパネル市場を狙う。
ディスプレイ市場の変化で、変わる透明電極の要件
液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ、タッチパネル、太陽電池などに欠かせない透明電極だが、その市場は大きく変わりつつある。
最も顕著な変化が、静電容量方式タッチパネル市場の成長だ。Cambriosの社長兼CEO(最高経営責任者)を務めるJohn LeMoncheck氏は、「Microsoftの『Windows 8』の登場で、PCにもタッチパネルが搭載されるようになった。これにより、今まではあまりタッチパネルを採用していなかった製品分野にまで、タッチパネルが浸透してきている」と述べる。さらに、フレキシブルディスプレイや有機EL照明、自動車など、透明電極の市場には今後の成長が期待できるものも多い。
こうした市場の変化により、透明電極の要件も変わってきている。具体的には、より導電性が高く、より低コストで、フレキシブルなディスプレイにも対応できる強度を持つ透明電極が求められるようになっているという。
例えば、消費者は、20インチのタッチパネルにも、スマートフォンやタブレット端末に搭載されている5〜8インチのタッチパネルと同じ応答性を求めている。そうした応答性を確保するには、高い導電性が必要だ。また、折り畳んだり巻いたりできるフレキシブルなディスプレイを実現するには、もろいITO透明電極よりも強度を持つものが求められる。さらに、11インチ以上だとコストが大幅に増加するといわれるタッチパネルにおいて、PCやモニターに用いられる20〜30インチのタッチパネルの低コスト化は必須になる(関連記事:11インチ以上のタッチパネルコストを40%削減、最大40タッチや圧力検知も可能)。
「そうした要件に応えられるものが、CambriosのClearOhmだ」(LeMoncheck氏)。ClearOhmは、銀ナノワイヤーを加えたインク(透明導電性インク)である。銀ナノワイヤーの直径は数十nm、長さはμmレベル。ClearOhmをフィルムに均一に塗布(または印刷)すると、高い導電性を有する銀ナノワイヤーが格子状に絡み合い、光の透過性と導電性の両方を備えた透明な導電フィルムができる(関連記事:フレキシブル/超薄型のタッチパネルに道、幅広い用途の透明電極に新材料登場)。
塗布(印刷)によりフィルム化できるため、ITO膜に必要な蒸着やスパッタリングといった真空プロセスが不要になり、コストを抑えられる。村山氏は、「低コストで量産できる、ロールツーロール(roll to roll)で透明電極を製造できるという点が最大のメリット」だと付け加えた。
ターゲットは、20〜30インチタッチパネル市場
LeMoncheck氏は、「技術力のあるフィルムメーカーが多く存在する日本市場は非常に重要だと認識している」と述べる。そこで、Cambriosの日本支社に新たにカントリーマネージャを置き、ClearOhmの売り込みを強化していく。カントリーマネージャに就任した村山氏は、「ClearOhmの優位性を最も発揮できるのが、一体型PCやモニターなど、20〜30インチのタッチパネルだと考えている。まずはこの市場において、フィルムメーカーとともにClearOhmの売り込みをかける」と強調した。
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