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非核三原則に学ぶ、英語プレゼンのポイント「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(17)(7/7 ページ)

海外でのミーティングに備えてどれほど準備を前倒ししようとも、当日はやはり、英語でプレゼンテーションをしなくてはなりません。ただし、プレゼンにも、われわれ「英語に愛されないエンジニア」が知っておくべきコツはあります。そのコツとは、ずばり、英語での議論が必要になる話題を「持たない」「作らない」「持ち込ませない」こと。つまり、非核三原則と同じように考えればいいのです。

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(付録2)米国で見た、“演技派”のエンジニアたち

 私の米国赴任中のお話を少々したいと思います。

【その1】

 第15回の付録で登場した、仕事のパートナーであったジョンは、製品開発の打ち上げの余興で、シェークスピアの「ハムレット」(だったと思う)の一人劇を、チームメンバーに披露しました。

 膝を床について、両手で顔を覆い、全身で苦悩する演技を、ハムレットの台詞を感情豊かにとうとうと語りながら、約5分間の一人芝居をやり通し、私を含めて開発メンバーの全員を圧倒していました。

【その2】

 娘の通っていた幼稚園のイベントで、父親たちだけで小動物の踊りをするために、無差別に10人ほどが強制的に選ばれました。

 直前まで無愛想のように見えた彼らですが、音楽が鳴り出すと、なんの照れもなく、愉快な(ファニーな)表情を浮かべて、自分の手をウサギの耳の形にして全員が一斉に踊り始めたのです。もちろん、ただの一人の脱落者もなく。

【その3】

 私のパーティションにあるホワイトボードの前で、ジョンと議論をしていた時のことです。開発チームを統括するジェネラルマネジャーのヘンリーさんがやってきて、笑顔で私たちに語りかけてきました。

 「昨日、われわれの開発製品のコードのバグが減少方向に転じたという報告を受けたよ」と話した彼は、「ついに、終わりの始まり(start of the end)だね」と付け加え、「君たちの多大な努力に、心から感謝している。もう一度、ありがとうと言わせてもらえるかな(Let me say "Thank you")」と言いながら、私たちに握手を求めてきたのです。おずおずと差し出した私の手を、ヘンリーさんの大きな暖かい手が包んでくれたのを、覚えています。


写真はイメージです

 パーティションを立ち去るヘンリーさんの後ろ姿を見ながら、私は両手の拳を口のところに持って行って、すんでのところで『ステキ!』と叫んでしまうところでした。

 もちろん、私だって、ヘンリーさんの言葉が「リップサービス(お芝居の一形態)」ということは分かっています。でも、開発の最前線でコードに埋もれながら、バグと格闘しているエンジニアには、このような、ほんのちょっとしたフォローが心に染みたりするものなのです。

 さて、皆さんに質問です。

 あなたの仕事仲間や上司に、
■シェークスピアの一人芝居を披露する人
■両手でウサギの耳を作って、いきなり人前でピョンピョンと踊り出すことのできる人
は、いますか?

 そして、あなたは
■大きな仕事を終えた後、「君たちの多大な努力に、心から感謝している」と言われて、部長から握手を求められたこと
が、ありますか?

江端さんのひとりごと「Let me say "Thank you"」より抜粋


本連載は、毎月1回公開予定です。アイティメディアIDの登録会員の皆さまは、下記のリンクから、公開時にメールでお知らせする「連載アラート」に登録できます。


Profile

江端智一(えばた ともいち) @Tomoichi_Ebata

 日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。

 意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。

 私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「江端さんのホームページ」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。



本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。



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