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誰も望んでいない“グローバル化”、それでもエンジニアが海外に送り込まれる理由とは?「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(18)(3/6 ページ)

今回は実践編(プレゼンテーション[後編])です。前編ではプレゼンの“表向き”の戦略を紹介しましたが、後編では、プレゼンにおける、もっとドロドロした“オトナの事情”に絡む事項、すなわち“裏向き”の戦略についてお話します。裏向きの戦略とは、ひと言で言うなら「空気を読む」こと。ではなぜ、それが大事になってくるのでしょうか。その答えは、グローバル化について、ある大胆な仮説を立てれば見えてきます。

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KY戦略が必要な理由

 いきなり生々しい話で恐縮ですが、「グローバル化」という言葉の中には、結構な比率で政治的な意図が含まれます。「名目的なグローバル化」というものです。

 海外でのプレゼンテーション(裏向き)の目的は、その政治的な意図を見破ることにあります。具体的には、そのプレゼンテーションにおいて、「誰が、どこで、フラグを立てたか」を、見抜くことにあります。


(クリックで拡大)

 私たちエンジニアのプレゼンテーションが、上図の「手続」や「利益モデル」にまで及ぶことはめったにないので、この「フラグ」を「感じること」はとても難しいかもしれません。

 ただ、覚えておいていただきたいのは、「グローバル化」ビジネスにおいて、その決定権を有しているのは幹部・重役であって、われわれエンジニアではないということです。

 われわれエンジニアのプレゼンテーションは、原則として、ビジネスを決定する権力者に対してまったくリーチせず、何も訴えないのです。技術の素晴らしさや、それによる投資対効果の効率の良さを説明したとしても、それが利益モデルまで変換されていない情報であれば、まったくミートしません。

 しかし、ミーティングの相手の幹部クラスが、あなたのプレゼンしている技術を使ってビジネスを立ち上げようとしているのであえば、“むちゃぶり”を承知の上で、必ず「金(カネ)」か「市場」に関する質問をしてくるはずです。もちろん、あなたは答えられませんし、答えてはなりません(前回の内容を参照)。

 そしてあなたは、幹部の話をしている「英語の内容」を理解する必要はありません。そもそも、経営の単語で語られる英語など100%理解できないと思います。

 しかし、幹部から、そのような質問がアプローチやアングルを変えて何度行われたか、あるいはまったく何も行われなかったか、ということはだけは覚えておいてください。そのような質問が「あった/なかった」だけでも十分です。

グローバル化は、相手側も望んでいない


写真はイメージです

 繰り返しますが、グローバルビジネスの決定権は、幹部クラスにあります。ですから、あなたは特に、幹部クラスの「空気」を読まなければならないのです。

 同じように、法務や経理に関する人が、この話を「進めたがっているか」「嫌がっているか」どうかの空気も大切ですし、部長や課長クラスのプロジェクトリーダーあたりの顔色もうかがっておく必要があります。

 具体的には、

  • 「まあ、研究開発セクションが、またわけの分からんことを始めとるなぁー。まあ、しばらくは好きにさせておくか」という、なんというか、どうでもよいというような、緊張感のない空気なのか
  • 「あの日本の会社の技術を盗み……、もとい、技術供与を受けて、いつ、どこで、いくら稼ぐか」という、草食動物を狙うギラギラした肉食獣のような空気なのか

を、ぜひプレゼンテーションの最中に「感じて」いただきたいのです。もちろん、このような、腹芸、阿吽(あうん)の呼吸というようなものの取り扱いが、われわれエンジニアにとって苦手な分野であることは十分に分かっています。

 原則として、海外の会社にとっても、日本の会社と組んで仕事をするのは面倒でやっかいなはずです。“本当はだれも「グローバル化」なんか望んでいない”というのは、われわれの側だけでなく、相手側にも通じる話なのです。

 そして、この「空気」こそが、あなたが出張から戻ってきた時、出張報告の最初に記載しなければならない重要な事項となります(これについては「報告編」にて、お話します)。

なぜ、われわれエンジニアが送り込まれるのか

 では、このグローバルビジネスにおける海外企業との協業という大舞台において、そもそも、主役としての「格」もなく、端役としても役に立ちそうもない、われわれ「英語に愛されないエンジニア」をなぜ海外の会社に送り込むのか――。どう考えても、奇妙な話ですよね。

 理由はいくつか考えられますが、多分、誰も公(おおやけ)には言えないことの一つとして、

協業できなくても、構わない

という事業的、経営的判断がある、と思われます。

 グローバルな協業体制を組んで、完全な採算ベースに乗るような事業にまで持ちこむ、というところまでに至らなくても、そのプロセスだけでも、おいしい思いをする関係者は、意外に多いのですよ。

 「グローバル化協業の検討を始めた」というだけで、経済紙のニュース記事にはなりますし、もちろん社内や社外のプレゼンスができます。

 また、協業相手の技術力はもちろん、体制、財務状況なども分かり、加えて、日本の法制度や運用などを前提とした巨大なシミュレーションとして利用することもできるわけです。

 しかも、それだけのメリットが得られて、経営的リスクは実質上ゼロ。検討コスト、人材コストはかかりますが、事業の失敗のコストに比べれば取るに足らない金額でしょう。

 要するに、「協業に至らないこと」であっても、どっちの会社にとってもそれほどの実害はないのです。あなたは、「英語に愛されない」というハンデを持った上で海外出張という戦いに参戦していますが、仮に「勝てない勝負」であっても、あなたの存在は十分に役に立っているのです。あなたの異国での血みどろの闘いは、どちらの会社にとってもメリットをもたらすからです。

――ただ一人を除いて。

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