記録密度上昇率が鈍るHDD、これからは電力コストを下げる「シールド/ヘリウムHDD」:ビジネスニュース 企業動向(2/2 ページ)
ストレージ装置は、データセンタなどにおけるデータ量の増大や、携帯情報端末の高機能化と需要拡大などにより、事業機会が拡大する。同時に大容量化や消費電力の低減、コストダウンなどを実現していくための新技術や新製品の開発が求められている。
ビッグデータのストレージに求められる3つの「V」
ストレージに要求される容量と性能は、その用途によって異なる。HGSTの説明によれば、一般的なデータベースに必要な容量はギガバイト(GigaByte)だが、遅延時間は1ms以下の性能が求められる。クラウドストレージ用途ではテラバイト(TeraByte)からペタバイト(PetaByte)の容量となるが、遅延時間は1ms〜10msでよい。ビッグデータストレージ用途になると、エクサバイト(ExaByte)の領域に近づくが、遅延時間は10msでも許容範囲となる。そして、ビッグデータストレージには多様性(Variety)、ボリューム(Volume)、速度(Velocity)と3つの「V」が求められるという。それは「解析に向けた高速SSD装置」、「データ量とアクセス時間の最適化を図った大容量HDD装置」、そして「ハードウェア/ソフトウェアの最適化」、「デバイスアーキテクチャの変化」などへの対応である。例えば、SLC/MLCのNAND SSD装置、10k/15K SAS(Serial Attached SCSI) HDD装置、7200RPMのSAS/SATA HDD装置などがある。HGSTではこれらに対応した製品を2013年に投入する計画である。
企業向けでSSD装置とHDD装置は共存
SSD装置市場は2012〜2016年の年平均成長率が32%増の見通しである。特に企業向けSAS SSD装置市場は、2013年に数量ベースで78%増と高い成長が見込まれている。また、企業向けはSSD装置とHDD装置の価格差が今後も大きく変わらないとの見通しから、SSD装置とHDD装置は補完しながら共存していくものとみられる。データセンタ用途の場合、NANDフラッシュはデータの書き込み回数など耐久性が懸念されている。このような課題を見込んだシステム設計が必要となる。また、SSD装置は従来のようにストレージコントローラを経由してCPUやDRAMに接続すると、インタフェース部でボトルネックが生じ、十分な性能が得られないことがある。そこで今後は、PCIeバスに直接接続できるPCIe SSD装置や、SAS SSD装置などへの期待が高まる。
新提案のシールド/ヘリウムHDD装置
前述のとおり、記録容量の需要が増大する中、ハードディスクメディアは記録密度の伸びが鈍化している。こうした中でHGSTが新たに提案しているのが「シールド/ヘリウムHDD装置」である。密度が空気の1/7というヘリウムガスを用いることで、機構部の消費電力を最大23%も削減できるという。プラット数は7枚(従来の空気タイプは5枚)まで搭載でき、その増量分だけ容量を拡大できる。同社は、「従来のHDD装置に比べてシールドHDD装置は、『40%以上の容量拡大』、『消費電力の低減』、『発熱が低い』、『耐久性が向上』、『低騒音』といった特長がある」と主張する。また、「大規模なデータセンタにおいて、シールド7D HDD装置を導入すると、従来の5D HDD装置に比べて22〜33%のTCO削減が可能」(Collins氏)という。
データの書き込みが中心となる「コールドストレージ」市場は、テープの代替としてこれから注目を集めそうだ。企業向け市場では、全体の10%がホットデータであり、残りの90%はコールドデータといわれている。同社はこのコールドストレージ分野などにシールド/ヘリウムHDD装置を提案していく考えである。
多様化が進むモバイル向けストレージ装置
ノートPC向けHDD装置は需要が鈍化する見通しだ。一方で携帯情報端末向けなど個人用ストレージ装置は、需要の増加と大容量化が進む。しかも薄型に対する要求が強く、HDD装置の厚みは9.5mmから7mmへ、さらに5mmへと進化している。また、SSD装置をはじめ、ハードディスクと不揮発性メモリとのデュアルドライブ装置や、ハイブリッドドライブ装置など、ストレージ装置の多様化が進むものと予想されている。
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