“AI”は死語!? 検索すると、歌手がずらり……:“AI”はどこへ行った?(1)(2/2 ページ)
人工知能(AI)の歴史は古い。今は、「AI」という言葉こそ聞かれなくなったが、Appleの「iPhone」に搭載されている音声認識機能「Siri」や、IBMのスーパーコンピュータ「Watson」などの登場により、人工知能自体は再び注目を集めている。では、いったい何をもってして“人工知能”というのだろうか……。
“人工知能”からイメージするもの
さて、皆さんは「人工知能」と聞いて、真っ先に何を思い浮かべるだろうか?
筆者の場合は即座に「ロボット」と答えてしまう。「知能を有するものは何か?」と素直に考えれば、金属の塊のような無機質なモノではなく、少しでも人間に近いような姿形をしているはずだと信じ切っているところもあるからだ。ロボットというと、ホンダの「ASIMO」を思い浮かべる人もいるかもしれない。商品化されたものとしては、ソニーの「AIBO」も記憶に新しい。しかし、ロボットは、これらのように人間や犬のような形をしたものばかりではない。災害現場で活躍するロボットなどは千差万別の形をしているし、一概にこれといった形状が決まっているわけではないのだ。
ゲームの世界ではどうだろうか? 1997年にチェスの世界チャンピオンに勝ったIBMのスーパーコンピュータ「Deep Blue」は当時、かなりニュースで取り上げられた。同じくIBMのスーパーコンピュータで、2011年に米国の人気クイズ番組で優勝した「Watson」は、Deep Blueの延長線上にあると考えられる。
スーパーコンピュータはPCとたいして変わらないサーバマシンくらいまでコンパクトになり、得意のビッグデータの解析能力を生かし、今ではその用途も医療分野からマーケティング分野まで広がるに至った。
日本でも将棋、囲碁、オセロの分野では、「コンピュータ vs. 人間」の対戦がしばしば行われ、今日ではプロをもってしても、なかなかコンピュータに太刀打ちできなくなっている。
いまどきの人工知能
次に、いまどきの人工知能について、既に実用化され、かつ皆さんの身近に存在するものから考えてみよう。
まずは、冒頭で書いた「音声認識」は、スマホに限らず、カーナビでもおなじみだろう。同じように「画像認識」は、デジタルカメラで、顔を見分けたり、目つぶりやスマイルを検出したりする機能に利用されている。こうした機能は、デジタルカメラのエントリーモデルにさえ搭載されているほど、一般的な機能になっている。
アイロボットの人気お掃除ロボ「ルンバ」をイメージする人もいることだろう。ゴミをどの程度きちんと吸い取ってくれるのか個人的には疑問もあるが、ゴミを見つけ、部屋がきれいになったかを判断し、障害物も避けて床を走り回る姿はなかなかユーモラスで、見ていて飽きない。
その他、エアコン、洗濯機、冷蔵庫など、「人工知能搭載」をうたう電化製品も増えている。
しかし、家庭にあるこのような電化製品を見て、「人工知能が入ってるんだ、すげー!」と思う人はどのくらいいるだろう? せいぜい、「昔に比べて家電製品が賢くなったな」と思う程度で、そもそも、“知能”が入っているというイメージすら湧かないのではないだろうか。仮にエンジニアであれば、「別に知能でも何でもなく、期待通りに動くようにプログラミングしただけでしょ!」とか、「人間の五感に相当するセンサが進化したからだ!」などと冷静に分析してしまうかもしれない。
人工知能の研究分野
では、ここで少し堅苦しく、人工知能の研究分野について見てみよう。
人工知能学会によれば、人工知能の研究分野は以下のように分類されている。
この1つ1つが、歴史の長い学問分野でもある。読者の皆さんならば、どれも一度は耳にしたことがあるだろう。「人工知能」という、何をどこから研究すればいいのか分からないような、つかみどころのない言葉も、このように研究分野が示されると具体的なイメージが湧くものである。
ここで考えたいのは、これらの研究分野を、どのような人工知能として生かすかということである。例えば、「音声認識」や「自然言語理解」であれば、話し手の言葉を聞き取る“耳”の役割を担う人工知能として応用することができるだろう。「画像認識」ならば、“目”として使えるはずだ。こう考えると、「情報検索」「機械学習」「データマイニング」などは、人工知能の研究というよりも、単にコンピュータの情報処理そのものの研究であることが分かる。だが、「推論」と「感性処理」などは、「検索」や「機械学習」よりも、もう少し人間チックなものを感じないだろうか?
筆者が考える人工知能とは……
筆者個人的には、人工知能の最大のポイントは、「単独で考えることができる」「意志を持つことができる」の2つだと考えている。欲を言えば、「感情を持つことができる」も含まれていてほしい。これらを備えたものが、“人工的に作られた知能”だと言えるのではないだろうか。
人工知能の専門家からは怒られるかもしれないが、この2つ(もしくは3つ)がなければ、「ちょっと賢いコンピュータ」とは言えても、「人工知能」とは言えないと思う。いくら情報収集や分析に長けていても、それはコンピュータであればごく当然であり、具体的に機械がどのような処理をすればよいのかを、人間があらかじめプログラミングしているからこそなせるものだ。これで果たして「知能」と言えるのだろうか?
ガンダム≠人工知能、鉄腕アトム=人工知能
人工知能とは、難しい定義などはどうでもよく、筆者なりの解釈としては前述したように、「人工的な知能」である。すなわち、人為的に作られたというだけで、人間の知能とはあまり変わらないものになる。変わるとすれば、圧倒的な情報を収集して蓄積し、解析できるという点だろうか。
SFの世界では、人間の脳だけが培養液か何かにぷかぷか浮かんでいて、その脳がさまざまなケーブルでコンピュータに接続され、この「脳+コンピュータ」が指示を出す……といったシーンが登場することがあるが、これは当然ながら人工知能ではない。「人工知能」と言うからには、脳そのものが人工的に作られた産物でなければならないからだ。
簡単に考えれば、人間が乗って操縦するガンダムは人工知能ではないが、漫画のドラえもんや鉄腕アトムは間違いなく人工知能になる。映画「スター・ウォーズ」に登場するR2-D2やC-3POも人工知能を搭載したロボットである。
では、次回よりいよいよ本題に入ろう。まずは、今回も登場したロボットの世界から話をしていきたいと思っている。
Profile
世古雅人(せこ まさひと)
工学部電子通信工学科を卒業後、1987年に電子計測器メーカーに入社、光通信用電子計測器のハードウェア設計開発に従事する。1988年より2年間、通商産業省(現 経済産業省)管轄の研究機関にて光デバイスの基礎研究に携わり、延べ13年を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者として、開発・技術部門の“現場上がり”の経験や知識を生かしたコンサルティング業務に従事。
2009年5月に株式会社カレンコンサルティングを設立。現場の自主性を重視した「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを提唱している。2010年11月に技術評論社より『上流モデリングによる業務改善手法入門』を出版。2012年4月から2013年5月までEE Times Japanにて『いまどきエンジニアの育て方』のコラムを連載。
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