日本がパワーデバイスの主導権を握る!――PDEAの狙い:ビジネスニュース 業界動向
自動車などに搭載されるパワーデバイスの評価、試験方法などの標準化を目指す団体「パワーデバイス・イネーブリング協会」(PDEA)が設立された。自動車メーカーなどパワーデバイスのユーザーや、半導体製造装置/材料メーカーなどサプライヤーも参画し、さまざまな視点から、有益なパワーデバイスの標準化を促進していく。
ハイブリッド車と電気自動車の双方の需要が高まる中、半導体業界のパワーエレクトロニクス市場への期待も急激に膨らんでいる。
米国の市場調査会社IHSが2013年初めに報告したところによると、電力供給や太陽光発電インバータ、産業用モーター駆動からの需要によって、パワーデバイス市場の売上高が毎年2桁成長を遂げるという。このIHSの予測は、多くの人々の注目を集めた。
「多くの半導体企業も、パワーデバイスの行く末に期待を寄せている」と話すのは、半導体テスターの大手メーカーであるアドバンテストの取締役である吉田芳明氏だ。
遅れる高耐圧パワーデバイスの標準化「いずれ致命的な問題が…」
吉田氏は、「携帯電話機やその他の小型民生機器に搭載される既存のパワー半導体は、評価方法などが確立され、十分に標準化されている」という。一方、ハイブリッド車や電気自動車、電力網、スマートホーム、スマートシティ、地下鉄向けパワートレインなどの大規模システムでは、高電圧や大電流が必要になるため、課題が残る。吉田氏によると、「パワー半導体やパワーモジュールを高電圧・大電流に関する要件に準拠させる上で必要な試験規格は、現在のところまだ正式に制定されていない」とする。そして吉田氏は、「このままでは、いずれ致命的な問題が生じる可能性がある」と警告する。
「日本製のパワー半導体で世界市場をリードする」
こうした状況を背景に2013年4月、日本でパワーデバイス・イネーブリング協会(Power Device Enabling Association:PDEA)が設立された。
PDEAの方針は明らかだ。大部分が未開拓の高電圧/大電流のパワーデバイス市場を日本がリードすることを望んでいる。PDEAのWebサイトには、「日本製のパワー半導体で世界市場をリードする」という日本の業界の野望が明示されている。
誤解のないように言うと、パワーデバイスの国際規格については、国際電気標準会議(International Electrotechnical Commission:IEC)が実権を握っている。IECの目的は、ディスクリート半導体素子の設計、製造、応用、再利用に関するさまざまな国際規格を策定することだ。この取り組みには、用語や定義、文字記号、根本的な評価や特質、方法や仕様の測定が含まれる。
パワー半導体のユーザーを最重要視する
PDEAは、このIECの活動領域を脅かす意図はないという。PDEAのディレクターを兼務する吉田氏は、「半導体企業が参加して行われているIECでの標準化活動に対し、パワーデバイスのユーザー(すなわち自動車メーカー)や、材料のサプライヤー、試験装置のベンダーの視点から情報を提供することで、標準化に大きな恩恵を与えると信じている」と強調する。そして、「PDEAは、オープンなフォーラムを開催することにより、半導体チップメーカーに限らず幅広い業界団体から情報を収集していくつもりだ」と付け加える。
PDEAは、「パワー半導体のユーザーを最重要視する」という同協会の創立精神に基づき、初代会長としてトヨタテクニカルディベロップメント(TTDC)の幹部を選任している。
PDEAは、第三者的立場から刺激を与える
TTDCは、2006年に設立された企業で、トヨタ自動車向けに自動車の設計や開発サービスを手掛け、車体やシャシー、エンジン、駆動系、燃料電池、電子機器、計装システム、ITシステム、通信システム、IP設計サービスなどを提供している。トヨタ自動車のエンジニアリング関連部門の中心的な役割を担っているといえる。吉田氏は、「PDEAは、TTDCのようなパワー半導体の大手ユーザー企業から、材料や品質、サプライチェーンに関する仕様について率直な意見を聞き、さまざまな要望を共有していきたいと考えている」と述べる。
PDEAは、第三者的立場から刺激を与えることによって、新しいパワー半導体エコシステムにおいて生じるギャップの解消を目指していく。
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