追い付かれない“QMEMS”で、事業領域を拡大させる――エプソン水晶事業戦略:ビジネスニュース 企業動向(2/2 ページ)
セイコーエプソンは2013年8月20日、都内で水晶デバイス事業に関する事業戦略説明会を開催し、「無線基地局/通信機器」「車載機器」「産業機器/医療機器」という3領域での売上高比率を高め、2015年度(2016年3月期)に営業利益率10%以上の達成をめざすとした。
「QMEMS」と「半導体技術」で優位性を高める
3領域での売り上げ拡大、コンシューマ機器向けでのシェア維持に向けた戦略は、明確だ。「QMEMS」と呼ぶ長く培ってきた水晶の独自微細加工技術と、近年融合を進めてきた半導体技術の2つを技術をベースにして、シェアの獲得を狙うというものだ。
独自水晶微細加工技術のQMEMSは、半導体デバイス製造と同様にフォトリソグラフィ技術を利用する製造技術であり、1970年代から水晶デバイス製造に適用してきたもの。1枚の水晶ウエハーで製造できるデバイスの数が、一般的な機械加工の場合と比べ、「10倍多い」という特徴を備え、デバイスの小型化だけでなく、低コストという利点があり、価格競争の激しいコンシューマ機器市場でのシェア獲得につながってきた技術だ。
このQMEMSにより、機械加工では16〜17μm厚が限界とされる水晶の薄化加工を2μmまで可能にした。ATカット水晶デバイスでは、薄さに比例して、発振周波数を高めることができる。この2μmの薄化加工技術により、800MHzという高周波発振デバイスも実現し、基地局や通信機器領域での販売に攻勢をかけている。
QMEMSとともに強みに位置付ける「半導体技術」は、QMEMSによる水晶素子の価値をさらに高める技術として位置付ける。水晶デバイスには駆動ICなど半導体技術が不可欠であり、「カスタムの水晶デバイスを提供するには、半導体技術が不可欠。自前で半導体設計機能を持つことで、多様な要求に応えられる」とその利点を説明する。
さらに、水晶駆動機能以外の周辺ICを水晶デバイスに取り込んだ高集積型の水晶モジュールの開発も進める。2014年には、ジッタを抑制するためのフィルタ機能をほぼ全て取り込んだ無線基地局向けのVCXOモジュールも製品化する予定だという。産業機器/医療機器向けにも、リアルタイムクロック(RTC)用半導体と32KHz振動子を組み合わせたRTCモジュールも展開する。北村氏は、「産業機器、医療機器などの領域には、パーソナル機器向けなどで実績ある製品群を顧客要件に最適化させて展開して対応していく」と語っている。
シリコン発振器に対しても、「大きなアドバンテージがある」
独自技術であり、今後の事業拡大の要となるQMEMSについて、北村氏は、「実験室レベルでフォトリソグラフィ技術を応用したQMEMSのようなものを作ることは簡単だろう。だが、100万個単位というような大規模な量を、顧客が満足できる品質、価格で実現することは、決して簡単ではなく、恐らくキャッチアップされることはない」と自信を見せる。また、MEMS技術を使い水晶に代わる発振器として製品化が相次ぐシリコン発振器に関しては、「シリコン発振器は出てきているが、通信機器に搭載できるような精度を実現したものはなく、まだまだ水晶に大きなアドバンテージがある。HDDなどラフな精度で、経年劣化しても構わない用途あれば、シリコン発振器を使うようなケースもある。ただ当社は、低価格なシリコン発振器の対応品も投入している。一度、シリコン発振器を採用した顧客が再度、その対応品に戻るケースも多く、価格的に対抗できている。ちなみに、当社もシリコン発振器の開発を実施しているが、当面は事業化しない」と語った。
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