省電力で二冠を達成したスパコン「TSUBAME」、鍵は“油に浸して冷却する”:ビジネスニュース(2/2 ページ)
省エネ性能ランキングで世界一となった、東京工業大学のスーパーコンピュータ「TSUBAME-KFC」。消費電力の低減の鍵となったのは、油浸冷却システムの採用である。
冷却ファンを外す
油浸冷却システムを導入するに当たり、計算ノードにも手を加えている。まず、CPUなどの発熱体とヒートシンクなどの放熱体の間に塗る熱伝導グリスを除去し、熱伝導シートに置き換えた。「グリスと冷媒油の相性がよくないことが判明したから」(東京工業大学)だ。また、回転体も冷媒油の中ではうまく回らないので、冷却ファンを外した。なお、現在のPCは冷却ファンがない状態だと稼働しないので、ファームウェアを変更して、冷却ファンがなくても稼働できるようにした。
冷却に使用する油(冷媒油)は、GRCの標準冷媒油が日本では第四類危険物に相当するため使えなかったため、代替品を検討し、ExxonMobilの「SpectraSyn Polyaphaolefins(PAO)」を用いている。
ただし、油浸冷却システムには弱点もある。現時点ではノードを横に並べて配置するしかないので、床面積が大きくなってしまうことだ。「縦に積み重ねた場合でも油浸冷却を可能にするのが課題」(東京工業大学)だという。
さらに、TSUBAME-KFCは2013年9月末に稼働を開始したばかりなので、真夏に冷媒油の温度がどのように変化するのかをまだ検証できていない。東京工業大学 学術国際情報センターの松岡聡教授は、「冷媒油のメンテナンスを含め、通年でどのように運用していくかが今後の課題だ」と述べている。また、TSUBAME3.0に油浸冷却システムを導入するかどうかについては、「未定」(同教授)だという。
注目を集め始めている「Green 500」
スーパーコンピュータの国際会議で発表される最も有名なランキングは、演算処理性能を競う「TOP500」だろう。2011年には理化学研究所と富士通が共同で開発した「京」が1位を獲得している。だが、TOP500はCPU内部の演算を重視したものであり、メモリアクセスやI/Oの性能などがあまり反映されていない点で、批判の声も上がっているという。
一方、低消費電力化の流れを受けて、注目が高まっているのが、今回TSUBAME-KFCがトップを獲得したGreen 500や、Green Graph 500だ。前者はLinpackを実行したときの電力効率(平均性能を平均電力で割ったもの)のランキング。後者はビッグデータを処理したときの電力効率のランキングとなっている。
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