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インタビュー

「本質に基づいてモノを作る」――日産GT-Rの開発者が語る、モノづくりにおけるシステム計測の役割NIDays 2013(3/4 ページ)

2007年に発売されて以来、世界中で圧倒的な人気を誇る日産自動車のスポーツカー「GT-R」。開発チームを指揮した水野和敏氏は、GT-Rについて「物事の本質に立ち戻り、それに基づいて開発しただけ」と言い切る。そして、物事の本質を“翻訳”してくれたのが、システム計測で取得したデータの数々だった。水野氏と、計測プラットフォームを提供する日本ナショナルインスツルメンツの池田亮太氏が、システム計測がモノづくりにもたらすメリットについて語った。

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システム計測の究極の姿とは?

水野氏 計測の精度が上がれば、付加価値として利益にもつながるんです。

 例えば、クルマのエンジン音がうるさいかどうかを調べるために音圧を測定する。でも、人間の気持ちはデジベルで測れるわけじゃない。うるさくても気持ちのいい音と、静かでもやたらと気になる音ってあるでしょう。音圧だけのデータを見ていても、それは絶対に分からない。

池田氏 私は、飛行機が飛ぶ音の中では寝られるんです。でも、夜、周りが寝静まっているときに聞こえる、冷蔵庫のブーンという低い機械音は気になって仕方ない。

水野氏 僕は反対に飛行機のエンジン音はダメなんです。でも、カーレース場でクルマが走る、あの音は全然平気。

池田氏 感性というのは、人によってさまざまですよね。

水野氏 国によっても傾向が違うんです。アメリカ人は、V8エンジンのドッドッドッという低くて重い響きの音が好き。でもF1のサーキットの音は、女性の金切り声に聞こえるそうです。反対にヨーロッパ人はV8エンジンの音は大嫌いで、クラシック音楽で流れるようなきれいな高音が好き。音だけを例にとっても、民族によって感性というのはこれだけ違う。だからスピーカを開発するならば、アメリカ向けには低音が響くものを、ヨーロッパ向けには高音がきれいに響くものを開発すればいい。つまり、音圧のデータと感性を結び付けて、スピーカという製品に付加価値を付けるということです。

 音以外でもそうですよ。日本人はふかふかしたソファが好き。でもヨーロッパ人、特にドイツ人はカチカチのソファが好きなんです。だからベンツのソファは硬いでしょ? ふわふわだと、酔うんだそうです。なぜかっていうと腸が短いから。日本人は、体形に対して腸の長さが世界一長い。だから、硬いいすだと腸に刺激が直接来て、つらくなるんだそうです。余談ですけど、それが馬の文化とカゴの文化にもつながっているのかもしれない。

池田氏 そういうことも、全部システム計測で見えてくるわけですね。


「システム計測は、感性の領域まで入り込んで、製品の付加価値を上げる」と語る水野氏

水野氏 システム計測の究極の姿というのは、感性の領域まで入り込んで製品や商品の付加価値を上げるためのツールなんです。

 それにいち早く気付くことができた国が、これからのグローバル競争に勝っていく。もう“計測”自体の概念が変わってきているわけです。

 ただし、取ったデータをどう使うか、データのパラメータをどう生かすかというのは、計測システムを使うユーザー側の責任になる。先ほどの音の例でも分かるように、音圧レベルのデータだけを見ていても仕方ない。その音を好むとか嫌うとか、そういう感性と結びついて初めて意味を成すデータになる。ある意味、計測器は使い手を試すわけです。だから、まず人間のことを勉強しないと、感動するものは作れない。

池田氏 人間を知るということですよね。人にはさまざまな感性があって、それは国や文化によって異なる。計測はそれを知る手段になる。だから、システム計測を利用して、複合的、総合的な視点から見れば、製品の付加価値をより高めることができるんですね。

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