電力変換システムのサイズが100分の1に、マイクロ波制御とGaNデバイスで実現:実装ニュース
パナソニックは、マイクロ波によるパワーデバイスのスイッチング制御技術と、双方向型GaN(窒化ガリウム)パワーデバイスを用いたマトリクスコンバータから構成される超小型電力変換システムを開発した。一般的なインバータを用いる電力変換システムと比べて、電力損失を低減するとともに、100分の1以下のサイズを実現している。
パナソニックは2014年2月10日、マイクロ波によるパワーデバイスのスイッチング制御技術と、双方向型GaN(窒化ガリウム)パワーデバイスを用いたマトリクスコンバータから構成される超小型電力変換システムを開発したと発表した。一般的なインバータを用いる電力変換システムと比べて、電力損失を低減するとともに、100分の1以下のサイズを実現した。また、マイクロ波でパワーデバイスの駆動を制御する電力変換システムは「世界初」(同社)だという。
開発した電力変換システムの特徴は3つある。1つ目は、交流電力から交流電力に直接変換できる、双方向型GaNパワーデバイスを用いたマトリクスコンバータである。一般的な電力変換システムに用いられているインバータは、交流を直流に変換し、さらに直流から交流に変換するため電力損失が大きく、大型の電解コンデンサや直流リアクトル、力率改善回路などによってシステムも大型化しやすい。システム寿命が、大型電解コンデンサの寿命によって制限されることも課題となっていた。
双方向型GaNパワーデバイスを用いたマトリクスコンバータであれば、半導体デバイスだけで電力変換回路を構成できるので、電力損失の低減とともにシステムの大幅な小型化が可能になる。さらに、GaNパワーデバイスそのものが従来のシリコンベースのパワーデバイスよりも損失が少ないことも電力損失の低減につながる。
2つ目は、マイクロ波の非接触電力伝送を用いたスイッチング制御だ。今回の非接触電力伝送に用いた電磁界共鳴結合方式に必要な電磁界共鳴結合器は、共鳴周波数を高くするほど小さくなる。今回使用した共鳴周波数が5GHzと高いこともあって、電磁界共鳴結合器のサイズは2mm角に抑えられた。電磁界共鳴結合器は、送信側共鳴器と受信側共鳴器から成るが、両方の共鳴器の間隔が広くても低損失で非接触電力伝送を行えるので、大きな絶縁耐圧を実現でき、制御回路と電力変換回路の絶縁が可能になる。インバータの場合、制御回路と電力変換回路の絶縁には、絶縁電源やフォトカプラなどの絶縁素子などの外付け部品が必要なため、半導体デバイスに回路集積することはできなかった。
また、電磁界共鳴結合器について、1つの送信側共鳴器を挟むように、2つの受信側共鳴器を上下に設けることで、1つの信号を2系統の信号に分割して非接触電力伝送できる構造にした。これにより、パワーデバイスのゲート制御配線を半分に削減することができ、システムの大幅な簡易化、実装面積の大幅な縮小を実現できた。
さらに、9個の双方向スイッチを3×3のマトリクス状に配置する3相マトリクスコンバータに必要な18個のゲート駆動回路を、GaNを用いた高周波デバイスで構成される1個のチップとして実現した。制御信号に関わる電力を共有できるので、ゲート駆動回路の電力を3分の1程度まで削減できたという。
3つ目は、GaNパワーデバイスとマイクロ波駆動回路の集積化技術である。GaNパワーデバイスは、半導体基板の表面側のみを平面的に電流が流れる横型構造であるため、パワーデバイスを横方向に絶縁分離できる。これらを半導体基板表面側のみで配線すれば集積化が可能になる。そして、制御用ゲート端子を2本形成すれば、従来4つのデバイスで構成されていた双方向スイッチを1個のデバイスで構成できる。これらの工夫により、3相マトリクスコンバータに必要な36個の半導体素子を1個の半導体チップに集積できたので、電力変換システムの大幅な小型化につなげられた。先述した通り、ゲート駆動回路もGaNを用いた高周波デバイスとして1チップに集積している。
なお、今回の開発成果の一部は、米国カリフォルニア州サンフランシスコで開催中の半導体集積回路技術の国際会議「ISSCC(IEEE International Solid-State Circuits Conference) 2014」(2014年2月9〜13日)で発表される。
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