ソニーは民生機器から脱却すべきか?:オピニオン(2/2 ページ)
PC事業の売却とテレビ事業の分社化を発表したソニー。同社が次に注力する事業には注目が集まるところだ。そのヒントは、「2014 International CES」における平井一夫氏の基調講演にあった。
“民生機器メーカー”から脱却すべき?
2014年2月6日付のThe New York Timesに、ソニーの業績に関する記事が掲載されていて、以下の部分に目が留まった。
“マッコーリーキャピタル証券のアナリストであるDamian Thong氏は、「特定の民生機器事業に注力し続けるという平井氏の戦略は、筋が通っているといえる。なぜなら同社は、こうした分野において、パナソニックなどのライバル企業をしのぐ多大な注力を行ってきたためだ」と述べている。「ソニーは民生機器メーカーだ。そこから撤退する戦略などあり得ない」(同氏)”
本当にそうだろうか。
筆者はその答えを探すべく、2014年1月に開催された「2014 International CES」(米国ラスベガス)での平井氏の基調講演を視聴してみた。
ソニーがPC/テレビ事業から完全に撤退したら、どうなっていくのだろうか。あるいは、最先端のセンサー技術の開発事業だけに専念するとしたらどうだろうか。さらに、ソニーが他の業界の機器メーカーとの間で、販売提携やライセンス供与契約、パートナー関係の構築などを行うようになるとしたら、どうだろう。
平井氏が基調講演の中で、とりわけ多くの時間を割いたのが、未来のセンサー技術だ。同氏は、「ソニーの既存のデジタルイメージセンサー技術は、“これまで見えなかったものを見えるようにする”最先端のセンサー技術を実現する上で、極めて重要だ」と主張している。ここで忘れてはならないのが、ソニーが世界CMOSイメージセンサー市場におけるリーダー企業であるという点だ。
平井氏は、「最先端センサー技術によって、速度や位置、波長といった目に見えないデータを収集し、組み合わせる。これにより、人間の知覚や洞察力を拡張して、最終的に“目に見えないものを見えるようにする”」と主張する。
同氏は、こうした技術を適用可能な例として、自動車(ADAS:先進運転支援システム)や農業(天候や二酸化炭素濃度などを感知)、スキンケア技術、一般的な医療用モニタリング装置などを挙げている。
このような同氏の見解は、ソニーの明るい将来をアピールするための誇大宣伝なのかもしれない。しかし、もしソニーが本気で“撤退戦略”を模索しているならば、これこそがまさにその戦略なのではないだろうか。
ソニーは、民生機器メーカーとして広く知られている。しかし、PCやテレビを手放すのならば、民生機器メーカーとしての地位も手放すべき時がきたのではないだろうか。
同社が最先端のセンサー技術で農業従事者をサポートしたいからといって、その技術を搭載するための機器まで製造する必要はないのだ。ソニーが、あらゆる業界向けに機器を製造したとしても、利益を得ることはできないだろう。
このような改革を実現するためには、現在のソニーを作り上げたビジネスモデルを完全に切り替える必要がある。ソニーにとって、PC事業を売却し、テレビ事業を分社するということは、財務面でもメンタル面でも非常に困難な決断だったはずだ。
ソニーの従業員数は、2013年9月の時点では14万5000人だった。5000人を削減しても、企業の規模としてはかなり大きい。これが、素早い決断を難しくしている可能性はある。
では、逆に考えてみればどうだろうか?
つまり、イメージセンサー技術の方をスピンアウトし、市場に果敢に挑む“新興企業”にしてしまうのだ。
どちらにしても、ソニーは利益を出せない事業を隠し持っているべきではない。ぎりぎりまで切り詰める作業を延々と繰り返すのではなく、将来性のある事業を救うべき時がきたのだと、筆者は考えている。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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