海外出張報告の極意――最後まで「英語に愛されないエンジニア」らしくあれ:「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(最終回)(4/4 ページ)
海外出張は、会社への業務報告で幕を閉じます。しかし、「英語に愛されない」エンジニアが、一部の隙もない完璧な報告をできるとは思えません。実は、それでよいのです。英語に愛されないエンジニアは、“英語に愛されない”という、その特性を最後まで生かして、報告会を乗り切るべきなのです。最終回となる今回の実践編(報告)では、その方法をお伝えします。
暴走ありきの“クローズドマインド”でよい
検討するまでもなく、「クローズドマインド」には問題点が山ほどあります。特に、客観性が担保されない業務報告は、会社を誤った方向に導き、多大な損害を与えることになりかねません。
でも、大丈夫です。
私たちが間違っていれば、必ず誰かが私たちを止めてくれます。会社が複数の社員を雇用しているのは、そこにチェックアンドバランスを持たせるためでもあるのです。
何より、会社という組織は、何かをやろうというアクションに対して、それをストップさせる巨大な権力を持っています。出向、異動、左遷、解雇 ―― ほとんど、無制限と言ってもいいくらいの種類の強制停止システムが常に稼働状態にあるのです。
だからこそ、私たちは、「クローズドマインド」で安心して暴走してよいのです。
それに、私たちが誤った選択をした場合の結末は、最悪でも「会社の倒産」です。社員には多大な迷惑を掛けることになりますが、それでも戦争のように多くの人が死ぬわけではありません。ここが、「カルト教団」や「ヘイトスピーチ」と、「クローズドマインド」との決定的な相違点となります。
では、今回の海外業務報告における「クローズドマインド」をまとめてみたいと思います。
(1)「自分の主観的な思い込み」を基軸に置いた報告を行って構わない。断片的な情報の羅列よりは、はるかにマシな報告となるからである
(2)「完全な情報」に基づく「無矛盾な報告」という考え方は捨てる。そんな報告は、そもそも不可能だからである
(3)「自分の中だけで閉じたロジック」で報告会を乗り切ってよい。実際に現地に行き、そこで見聞きし、会話をしてきたのは、唯一「この私」だけだからである
(4)そして、仮に「この私」が誤った方向に暴走していたとしても心配する必要はない。組織は、私たちを簡単に止め得る権能を持っているからである。
以上をもちまして、「「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論」を完了させていただきます。2年間、総計32回に及ぶ連載にお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました。
ここで、連載のあとがき、感想、そして謝辞と続くところなのですが、書いていたら大変長い文章となってしまいましたので、これをまとめて、もう一回掲載致します。
次回「総括編」にて、私から皆さんへの最後のメッセージ、
「「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論」とは、「愛」である
をお贈りして、お別れしたいと思います。
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Profile
江端智一(えばた ともいち) @Tomoichi_Ebata
日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。
意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。
私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「江端さんのホームページ」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。
本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。
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