骨よりも強くて100%リサイクル可能、IBMの新種ポリマー:材料技術
IBM研究所が新種のポリマーを開発した。骨よりも強く軽量で耐溶剤性があり、100%リサイクル可能だという。欠陥が見つかったチップを原材料に戻して製造し直すことも可能になるので、半導体業界への応用も期待されている。
IBM研究所は2014年5月15日(米国時間)、運輸、航空宇宙、マイクロエレクトロニクスなどの分野に応用できる、新種のポリマーを開発したと発表した。独自の高性能コンピューティング技術とポリマー合成技術を組み合わせて開発されたこの材料は、クラック抵抗(耐亀裂性)に優れ、骨よりも強いという。さらに、100%リサイクル可能で、自己修復の性質も備えている。
同研究内容は、2014年5月15日に発行されたジャーナル誌「Science」に掲載されている。同研究は、IBM研究所の他、米カリフォルニア大学バークレー校、オランダ アイントホーフェン工科大学、サウジアラビアのKing Abdulaziz City for Science and Technology(KACST)と共同で行ったもの。
ポリマーは、分子を結合した長い鎖状の化合物である。衣服やペットボトルから、自動車や飛行機のボディに至るまで、あらゆるところで使われている。
だが、現在一般的に使用されているポリマーは、いくつかの点で限界がある。まず、クラック耐性が弱いということだ。運輸や航空宇宙の分野では、飛行機の除氷材や燃料、洗浄剤などにさらされることが多く、こうした溶剤への耐性が低い。また、高温で合成されることにより、いったん生成されるとリサイクルが難しいというデメリットもある。ゴミ廃棄場にそのまま捨てられ、生分解性のない毒性の物質となってしまう。
100%リサイクル可能なポリマー
IBM研究所が開発した新種のポリマーは、強度と耐溶剤性を備え、亀裂が入ると自身で修復する性質を持っている。100%リサイクル可能という性質は、半導体業界にとっても大きい。欠陥品を廃棄する代わりに、それを新しいチップや部品に再生できる可能性があるからだ。これは、製造歩留まりを向上し、コストダウンと廃棄物量の削減に大いに貢献すると考えられる。
IBMの研究者は、新材料の開発を加速すべく、これまでにないコンピュータ化学的アプローチを用いた。実験と高性能コンピューティング技術を組み合わせ、新しいポリマーの生成反応をモデリングしたのだ。従来の方法からの脱却を図ったことで、「成熟しきって新しい発見も大きな進歩もあまりない」とされる材料分野において、新種のポリマーを開発するに至ったのである。
新種のポリマーの生成は、安価な原材料を凝縮することから始まる。分子は、水やアルコールといった副生成物を出しながら結合していく。250℃の高温で加熱すると、共有結合の転位と、ポリマー内に閉じ込められていた溶媒を失うことで強度が大幅に増す。この時点で骨や繊維板よりも強度は高くなっているが、同時にもろくもなっている(ガラスが砕け散る場合と同じだと考えればいい)。
このポリマーは水にさらしても何の変化も起きないが、強い酸性の液体にさらすと選択的に分解が進む。適切な環境下では、ポリマーが原材料に戻るということだ。原材料に戻れば、他のポリマーとして再利用できる。カーボンナノチューブや他の強化材料を混合して高温に加熱すれば、強度をより高めることも可能だ。この場合、新種のポリマーはいわゆる複合材料となり、金属と似た性質を持つようになる。複合材料は航空機や自動車に用いられるが、これは金属よりも軽量だからである。輸送機では、燃料の節約となる軽量化は非常に重視されている。
“自己修復”の性質も
低温(室温よりもやや高い程度)では、伸縮性のあるゲルに変性できる可能性がある。多くのポリマーよりも高い強度を持つ一方で、分子構造内に溶媒が閉じ込められていることから、柔軟性も実現している。
このゲルの最大の特長は、自己修復(self healing)を行うことである。ゲルを切断し、2つの断片を隣り合わせに置くとほんの数秒のうちに化学結合が再度形成され、1つのゲルに戻る。この自己修復をうまく利用して、他のポリマーに結合したり混合したりといった用途も考えられる。
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