電力という不思議なインフラ(前編)〜太陽光発電だけで生きていけるか?〜:世界を「数字」で回してみよう(6)(1/4 ページ)
太陽光発電のみで生活する――。これが現実になれば、私たちはもう原発やら電気代やらを心配することなく、夢のような生活を送ることができるでしょう。市販のソーラーパネルの「発電出力」だけを見れば、あながち不可能ではない気もしてしまいます。ですが、太陽光発電には大きな“落とし穴”があるのです。
先日、後輩の研究員と「家庭用ソーラーパネルによる発電だけで、自宅の電力の全てを賄えるか?」というテーマで、ディベートをしていました。
私は、エネルギー庁の資料の数字を示して「不可能である」旨を主張しましたが、彼は、東京電力から届いた請求書を持ち出して反論しました。
■我が家の先月の使用電力量は340キロワット時でした。つまり、1日平均にして、約11キロワット時を消費しているとみなせます。
■ならば、4キロワット時の出力のソーラーパネルがあれば、3時間分の発電(4キロワット時×3時間)で、十分足りるはずです。
■例えば、この250Wのパネルを16枚、屋根に貼り付ければ(250×16=4000)、それで良いはずです。
―― あれ? そうなの?
と、私は一瞬、あぜんとしてしまいました。
こんにちは、江端智一です。
今回は、『電力シリーズ』の最終回になります。これまで書き切れなかった、電力に対する私の疑問のいくつかを、数字で回してみようと思います。
本日は、「私達の家の電力は、ソーラーパネルだけで賄うことができるか?」で始めさせていただきます。
もし、これが可能であれば、電線という鎖につながれることなく、どんな山奥でも、(設備、保守コストを無視すれば)少なくとも、電力の心配をすることなく、夢の隠遁生活ができるはずです。
でも、そんな話は、いまだに聞いたことがありません。
そこで、私はいろいろなメーカーの資料を調べてみたのですが、これが、どうにもはっきりしないのです。
私は単純にソーラーパネルによる平均発電量を調べたいだけなのに、どの資料を見ても、いつの間にか「お金」の話にすり替わっているのです。
メーカーや設置業者のシミュレーションのWebサイトにいっても、発電した電力を電力会社に売り込む話が折り込まれていて ―― なんか、とっても怪しい。
メーカーのソーラーパネルのカタログの記載も、なんか変なのです。年間の発電量総量(キロワット時)と、(瞬時の)最大出力値(ワット)も記載されていますが、これを併記する理由が分かりません。
さらには、「モジュール変動効率」なる、太陽エネルギーから電気エネルギーへの変換効率値なども記載されていますが、そんなことはユーザにはどうでも良いことです。私達ユーザに興味があることは、「作ることのできる電力量」だけなのですから。
カタログの記載からは私の欲しい数字が全く出てこないので、愛知県武豊町にある「メガソーラーたけとよ」の公称データを使わせて貰うことにしました。
「メガソーラーたけとよ」は、ナゴヤドーム3個分の広大な敷地で1.3m×1mのソーラーパネルを3万9168枚使用し、7500キロワットを発電しています。パネル1枚当たりの出力が191ワット(750万ワット/39168パネル)になりますので、おおむね家庭用に使われるパネルと同じ品質のパネルと考えて良いでしょう。
もっともこの値は、ギンギンギラギラに太陽が照りつけている理想的な状態での発電量ですから、これを、雨や曇りや夜間も含めた、実質的な平均発電量に変えなければなりません。
このメガソーラーの想定年間発電量は730万キロワット時ですから、平均の出力は11%程度(730万キロワット時/(7500キロワット×24時間×365日))となります。「たった10%程度なの?」と、かなり驚きましたが、これは、東京都、神奈川県が想定している値とほぼ同じなのです(参考資料)。
つまり、250ワットのソーラーパネルを16枚、自宅の屋根に貼りつけたところで、実質は4キロワット時の11%である、0.44キロワット時しか電力は得られないということです。
1日で10.6キロワット時(0.44キロワット時×24時間)、ひと月で317キロワット時(0.44キロワット時×24時間×30日)になります。
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