電力という不思議なインフラ(前編)〜太陽光発電だけで生きていけるか?〜:世界を「数字」で回してみよう(6)(2/4 ページ)
太陽光発電のみで生活する――。これが現実になれば、私たちはもう原発やら電気代やらを心配することなく、夢のような生活を送ることができるでしょう。市販のソーラーパネルの「発電出力」だけを見れば、あながち不可能ではない気もしてしまいます。ですが、太陽光発電には大きな“落とし穴”があるのです。
「貯める」ことが難しい
後輩宅での月間使用電力は、340キロワット時でしたので、ちょっとだけ足りませんが、ほんの少し節電すれば、ソーラーパネルだけで後輩宅の電気は賄える―― と思うでしょう?
これが、全然ダメなのです。
ソーラーパネルの電気を「貯める」ことが、難しいのです。
完全独立型の自家発電ハウスの実現を実現するのに必要な数字を、机上シミュレーションで回してみました。
まず後輩宅では、1日11キロワット時の電力を使用するので、どう考えても、最低でも10キロワット時の電力を蓄える電池が必要です。
今、一番安いと思われる家庭用の蓄電池を調べてみたところ、蓄電量が1.6キロワット時で、最大消費電力が120ワット(これではクーラーを一台も動かすことができない)でしたので、これを7台(10キロワット時/1.6キロワット時=6.25)程度、並列接続する必要があります。
しかし、これで、原理的には、1日分の電気を貯めることはできるようにも思えます。
では、ここでコストを登場させましょう。
この蓄電池が1台70万円ですので、7台で合計約500万円が必要となります。浴槽程のサイズでその総重量は280kg。屋内設置が必須で、寿命は5年です。
携帯電話機やスマートフォンでご存じでしょうが、蓄電池の蓄電効率は時間とともに劣化します。
これにソーラーパネル、パワーコンディショナのライフサイクルも加えると、自家発電ハウスを実現するには、設置、保守コストを無視しても、最低年間115万円必要となります。比して、一般家庭の年間電気料金は、4人家庭で年間14万円です(参考資料)。つまり、自家発電ハウスを実現するには、今の電気代金の8倍以上ものお金が必要になるのです。
そもそも、昼に発電した電気を、簡単に夜に電気が回せるくらいなら、わざわざ、リアルタイムで電気会社に電気を売る仕組みなど必要ありません(参考資料:「太陽光発電の余剰電力買取制度について」)。
仮にコストの話を引っ込めたとしても、自家発電ハウスは、運用面において問題があります。
雲や雨が降っている日や、南中高度が低い冬季では、夜間に必要な電気を確保できませんし、この500万円の蓄電池で確保できる電力は1日分だけです。
このケースでは、どんなに頑張っても10.6キロワット時以上の電力は発電できないのですから、蓄電池を増設しても意味がありません。
次の日、太陽が出てくるまでに、電力が使い尽くされる恐怖におびえるホラーハウス ―― そんな家に誰が住みたいと思うでしょうか。
結論として、現時点において、「ソーラーパネルによる発電だけで、家庭用の電力の全てを賄える」ことは無理、と言い切って良いかと思います。
電力では、「同時同量」という言葉が使われます。電力は「冷蔵庫のない魚屋、肉屋」のようなものです。魚を釣った瞬間にすぐに刺身にして食べる、とか、牛や豚を屠殺した場所でそのまま焼いて食べる、というイメージです。
「電気を余らせるくらいなら、貯めとけばいいのに」と思われるかもしれませんが、電気を貯めるコストは、電気を作るコストと比較にならないくらい高価なのです。蓄電池を使わない方法では、揚水発電などもあるのですが、全発電電力の1%にも至っていません(参考資料)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.