「環境問題」とは結局何なのか(前編)〜勝算不明の戦いに挑む意義〜:世界を「数字」で回してみよう(8)(1/3 ページ)
地球環境問題というのは、身近な問題のようでいて意外と当事者意識をイメージしにくいものです。それでも、環境問題は何十年も前から提起され、国レベル、世界レベルで規制や対応が検討されてきました。今回は、実際に数字を回す前に、プロローグとして“環境問題とは結局何なのか”、ということを筆者なりに考えてみたいと思います。
あの暑い夏が終わって、短い秋が過ぎれば、私の大好きな冬がやってきます。澄んだ空気、モノトーンのわびしい風景、美しい星空、美味しい食事(鍋がうまい)。そして、スキーができるようになる冬。
そして、ストーブの灯油が燃える匂いの中、心を落ち着かせながら読書を楽しめる冬です。
「全人類、窒息死」というパラダイム
ある日の朝、自動車の中での嫁さんとの会話です。
江端:「石油ファンヒータって凄いよね。寒々とした部屋が、1分足らずで一気に暖かくなるんだから」
嫁さん:「灯油缶(18リットル)を2階に持ち上げるのって、結構な重労働なんですけど」
江端:「そういえば、灯油缶の灯油を石油ファンヒータで燃やした時、どの位の重さのCO2ができると思う?」
嫁さん:「重さ?単純に重さでいいの?」
江端:「うん」
嫁さん:「そうだなぁ……うーん、3kgくらいかな」
江端:「うん、やっぱりそう思うよね」
嫁さん:「もっと重いの?」
江端:「答えは、45kg(*1)」
嫁さん:「え? 最初の灯油より重くなるの?」
江端:「灯油を燃やすと、約3倍の重さのCO2が製造される」
嫁さん:「3倍? 何で!?」
江端:「灯油って、殆ど炭素の塊みたいなもので、燃える時に、その2倍の重さの酸素(O2)がくっついてCO2ができるから」
わずかな沈黙の後で、嫁さんが続けました。
嫁さん:「それってさあ……石油ファンヒータを使うだけで、結構な量の酸素を消費するってことだよね」
江端:「念のため、計算してみた*1)。私の6畳の部屋なら、灯油が2.4kgで酸素をゼロにできる」
*1)計算結果は、私のHPからご覧いただけます。
嫁さん:「それって、どのくらいの時間で起こるの?」
江端:「石油ファンヒータの取説で燃焼速度を調べてみたところ、最短で10時間くらいかな」
嫁さん:「なんだ、結構、時間あるんだ」
と、ほっとした表情を見せた嫁さんに、私は続けて言いました。
江端:「『酸素ゼロ』ならね。でも、人間の体内酸素は16%で保持されているから、部屋の中の酸素が16%以下になると、逆に体内から酸素が『強制的に抜き取られる』状態になるんだ」
嫁さん:「『抜き取られる』?……で、結局、どのくらいの時間で危険なレベルになるの?」
江端:「計算上、2時間半で16%のボーダーを突破、5時間で意識があっても体を動かすことができなくなり、その後は『死』に向かって一直線」*2)
嫁さん:「じゃあ、石油ファンヒータをつけっぱなしで、眠り込んだりしたら……」
江端:「一つ間違えれば、あれは立派な『殺人兵器』だよ」
*2)実際には、酸素の不足→灯油の不完全燃焼→一酸化炭素発生→酸欠となり、もっと短時間で死ねます。
その時、嫁さんが、ボソッと呟きました。
嫁さん:「あのさ……、このまま人類が化石燃料を使用し続ければ、『全人類が窒息死する』という話にはならないの?」
『全人類、窒息死』 ―― これは、私が思いもよらなかった、斬新な切り口の「環境問題パラダイム」でした。
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