バクテリアから生まれた光センサー、人工網膜に利用できる可能性も:センシング技術
情報通信研究機構(NICT)は、「NICTオープンハウス2014」でバクテリアの膜タンパク質を使った光センサーを紹介した。このようなバイオ素材は人体との親和性が高いので、半導体では難しい応用例などが生まれる可能性がある。
情報通信研究機構(NICT)は、最新の研究成果を発表する「NICTオープンハウス2014」(2014年11月27〜28日)で、バイオ素材を用いた光センサーを紹介した。
バクテリアの膜たんぱくを利用
NICTが紹介したのは、塩湖に生息する高度好塩菌というバクテリアを利用して、光センサーを開発するという取り組みだ。具体的には、このバクテリアの細胞膜から抽出される「光受容膜タンパク質バクテリオロドプシン(以下、バクテリオロドプシン)」という物質を使う。ロドプシンは動物の網膜にも存在していて、光を受容する役割を担っている。
NICTによると、バクテリオロドプシンに光を当てると、時間微分応答の特性を持つ光電流が非常に高い感度で得られるという。光を当てた瞬間(オン)と、切った瞬間(オフ)に電流のピークが得られるということだ。光の強度の変化のみに応答する電気信号を、外部から電源を供給することなく取り出せるので、無給電の光センサーを実現できる可能性がある。
バクテリオロドプシンは、高度好塩菌を培養し、破砕して遠心分離器で精製することで得られる。NICTはそれをITO基板に塗布し、もう1枚のITO基板で挟んだ「光応答セル」(bR[バクテリオロドプシン]セル)を作製。評価を続けている。「これをアレイ化してカメラなどに応用できれば、カメラの高感度化と低消費電力化に役立つ可能性がある」(NICT)。
bRセルは、電気通信大学が開発したマイクロマウスに、姿勢検出や制御のための視覚センサーとして搭載されたこともある。将来的には、物体の運動方向をベクトル情報で表すオプティカルフローセンサーの実現を目指している。
NICTは、「バイオ素材を使ったセンサーであれば、廃棄時に環境に与える負荷が少ない。人間の体との親和性も高いので、例えば人工網膜などに応用できる可能性もある。半導体のような無機素材では難しい、新たな用途を開拓できると考えている」と話す。
さらに、「生物が持つ仕組みを使って素子を作るということ自体も、興味深い」と付け加えた。生物が有する優れた機能や特性を模倣して、高性能な機器の実現に取り組む研究開発も、ますます活発になっている。シャープのように、動物や昆虫が持つ機能を模倣した技術を取り入れた家電を積極的に発表しているメーカーもある。スイスの工科大学は、イカの動きを模倣してロボットを開発した(関連記事:イカの動きがヒントに! ポケットサイズの制御機器を使った水中ロボット)。
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