“日本のピュアファウンドリ”に本気で挑む三重富士通の勝算:三重富士通セミコンダクター 社長 八木春良氏(3/4 ページ)
富士通の半導体事業再編の中で2014年末に誕生したファウンドリ専業会社「三重富士通セミコンダクター」。台湾をはじめとした海外勢の独壇場となっている大口径の300mmウエハーによる半導体受託生産市場で、最先端微細加工技術、大きな生産能力を持たない同社はどう生き残って行くのか。同社社長の八木春良氏に聞いた。
ターゲットはマイコン
EETJ 40nmまでのプロセス、製造能力、低消費電力技術など3つの差異化技術で、フィットするアプリケーションの想定はありますか。
八木氏 端的に言うと、低消費電力、不揮発メモリ、RFの3点セットが必要なマイコンだ。SoCといえども、高性能なARMコアを搭載するものの、広義にはマイコンベース。そういう意味も含めて、われわれがフィットする領域はマイコンベースだろう。
5年後のプロダクトミックスを見据えた開発
EETJ 現状の顧客構成についてですが、ソシオネクストからの受託割合はどの程度でしょうか。
八木氏 これまで一緒に事業してきたわけであり、決して小さくはない。われわれが40nmを立ち上げる際に、ソシオネクストからも受託できるとは思うが、ただ恐らく、ソシオネクストはパフォーマンスを求めていくだろうから、われわれの40nmまでの技術では足りなくなる。その結果、ソシオネクストからの受託割合は小さくなっていく。5年後ぐらいには現状のプロダクトミックスが変わると考えている。そこで、マイコンベースの受託でカバーしていたい。
ちなみに、三重工場300mmウエハーラインは、立ち上げ当初から富士通以外からの受託生産を狙ったラインであり、結果的にはASICが多かったのだが生産の2/3程度は富士通ブランド以外のものだった。
UMCとの協業の狙い
EETJ UMCからの出資を受けられることになっていますが、UMCとの協業関係はどのようなものになるのでしょうか。
八木氏 UMCからすると“日本でモノを作る工場が欲しい”という思いがあった。また、われわれとしても、特に自動車関連顧客から要求される複数工場での生産を実施するために、以前から65nm、55nm世代でUMCの製造拠点にわれわれのプロセス技術を移植した製造ラインを構築していた。そこで、40nm世代では、互いの工場で製造できるように協業しようということになった。
そして何より、UMCは40nm世代で、既に実績がある。具体的には、IPが、サードパーティー製を含めて、そろっている。そうしたエコシステムを協業によって、ライセンスを受けて活用できるという利点が生まれる。
40nm世代に限っては、UMCと基本的に同じ製造プロセスにしながらも、その上で、われわれしかできない低消費電力技術や不揮発メモリ技術を実現していきたい。希望としては、55nmまでの自社プロセス向けに開発した低消費電力IPや不揮発メモリIPをあまり変更せずに(UMCと共通の)40nmプロセスに適用できるようにしたい。
なぜ40nmなのか
EETJ 40nm世代の次世代、28nm世代以降の開発は行わないのですか?
八木氏 現状、開発を行う予定はない。微細化技術で勝負するつもりは今のところない。
EETJ 40nm世代まで対応し、28nm世代には対応しないという理由はどの辺りにありますか?
八木氏 28nm世代からは、High-K/メタルゲートが必要なリプレイスメントゲートの適用などで工場設備がガラリと変わってくるためだ。液浸露光装置を使う40nmと28nmとの間に大差はないという考えもあるが、個人的には新材料を入れることによるコスト増は大きいと思う。40nmが最も効率的なプロセス世代になるとみている。
足元、好調だが……
EETJ 現状の工場の稼働状況をお教えください。
八木氏 足元、デリバリーでご迷惑をお掛けしており、それもあって、現状の月産3万5000枚の製造能力に、新たに月産5000枚の40nmプロセス対応ラインを増設することを決めた。
また、課題として、顧客の要求に対し、もう少しフレキシブルに対応できる生産体制を構築したいと思っている。われわれは、生産能力で勝負するわけではないので、フレキシブル性がなければ、厳しい競争を強いられることになる。
フレキシブルさを発揮するには、ある程度、製造能力に余裕がないとできない。当然、余裕がありすぎるともうからないという難しい問題も抱えることになる。ただ、われわれはファウンドリのスタンダードといえる規模の大きい台湾のファウンドリと全く同じモデルを実践するのは不可能であり、そのつもりもない。台湾とは少し違ったモデルとして、顧客へのサポートを含めてフレキシビリティを発揮しなければならない。
ただ、ファウンドリとして、再投資を行っていける規模にまでは成長しなければならないことも確かだ。これまでわれわれは古い工場を古いままで回してきたことは反省すべき点。再投資しなければ、ファウンドリとして長続きしない。
微細化投資については、推測ではあるが、20nm以降はそんなに使用するユーザー数は増えないと思っている。半導体技術は明らかな曲がり角にあり、20nm以降のプロセスが急に安くなるとは思えない。そして、40nmでも今後20〜30年、事業を展開できると思っている。現状でも、0.18μmで稼いでいる企業は多くあり、40nm世代でも同じことが言えるのではないだろうか。先端を行かなければ、ファウンドリが成り立たないということはない。われわれが主戦場とする90〜45nm世代で、差異化する技術を作って勝ち残っていきたい。
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