「価値創造」はできても「価値獲得」ができない?:勝ち抜くための組織づくりと製品アーキテクチャ(2)(2/3 ページ)
技術革新によって新しい価値を生み出しても、それが“企業への適切な対価”に直結するわけではない。「価値の創造」と「価値の獲得」は、別物なのである。私たちは、そのことを、DVDプレーヤにおける日本メーカーの“敗北の歴史”から学ぶことができる。
短期間で価値が低下するデジタル家電
第1回の記事にて、電機メーカーは“イノベーション”が多くても低迷し、一例として、液晶パネル、DVD、カーナビ等、元々は日本企業がシェア100%を有していたにもかかわらず、わずか数年でシェアが奪われたことを紹介した。
これを、先述した「価値づくり」と照らし合わせて考えてみたい。図2はDVDレコーダーを例にした各時代背景と市場の動きを対比したものである。
1970年代に、後に「VHS-ベータ戦争」の引き金になる記念すべきビデオデッキの第1号機が、ビクター(「HR-3300」)とソニー(「SL-6300」)から登場した。「Japan as No.1」といわれる1980年代に突入する少し前のことである。それまで放送業界向けでしかなかった録画デッキが、家庭用のビデオデッキとして登場したのだ。当時の最高技術が注ぎ込まれたビデオデッキは、記録技術の進歩に大きく貢献した。この時代は、今のようにCPUやソフトウェアを内蔵しているものではなく、“デジタル家電”とは程遠い、強いて言えば、“アナログ家電”と呼ぶべきものだ。性能を出すために、随所に調整箇所があり手間がかかっていて、「エレクトロニクス立国日本」を代表する製品でもある。
「強き日本」であった1980年代が過ぎると、バブル崩壊後に日本は「失われた20年」へと突入していく。その間、1996年には“日本初”で“高度な技術とイノベーション”と称された世界初のDVDプレーヤ(「SD-3000」)が東芝から発売される。当時はシェアほぼ100%を有していたが、わずか10年足らずで20%以下に落ち込んだ。その間、DVDプレーヤはDVDレコーダの登場を迎え、アナログ方式のビデオデッキに別れを告げる。そして今日のブルーレイレコーダへと進化を遂げる。今日では、ご存じの通り、DVDプレーヤは映像の録画だけではなく、PCのドライブとしてもCD-ROMにとって代わり、今では数千円でお釣りがくる。
据え置き型のDVDプレーヤとPC用のDVDプレーヤを同じ土俵で比較するのは少し無理があるが、それにしても、なぜたった10年足らずでここまで価格が下がってしまったのか? 中国・韓国・台湾メーカーが同等製品を圧倒的に安い価格で開発・製造・販売ができたのかを考えると、日本初・世界初だろうが、高度な技術が注ぎ込まれていようがなかろうが、従来のモノづくりから何かが大きく変わっていることに気づく。
新たな「価値創造」ができても、あっという間に同業他社が参入し、価格破壊が起きる。コモディティ状態となったマーケットでは、機能・性能では差別化ができず、価格だけで勝負が決まる。特に今後、本連載を通じてお伝えしていく、「価値のあり方」「デジタル特有のモノづくりと製品開発とアーキテクチャ」をよくよく考えていかないと、先述した「横並びからの脱却」や「顧客価値の創造」には容易には至らない。
DVDプレーヤはほんの一例に過ぎないが、これが指し示すものは、「価値創造」はできても「価値獲得」ができなかったことに他ならない。冒頭に述べた、「イノベーションによって新しい価値を生み出すことができても、企業側は適正な対価を得られなかった」ということを、このDVDプレーヤの歴史から読み取れるのだ。
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