「価値創造」はできても「価値獲得」ができない?:勝ち抜くための組織づくりと製品アーキテクチャ(2)(3/3 ページ)
技術革新によって新しい価値を生み出しても、それが“企業への適切な対価”に直結するわけではない。「価値の創造」と「価値の獲得」は、別物なのである。私たちは、そのことを、DVDプレーヤにおける日本メーカーの“敗北の歴史”から学ぶことができる。
価値創造と価値獲得
そう! まさにこの「価値創造ができたにも関わらず、価値獲得ができなかった」ことが、先の延岡健太郎氏も述べている内容なのである。図3は、同氏が述べていることを筆者がチャート化したものだ。
ここで、上の図3を、第1回の図3と見比べてみよう。
「価値創造プロセス」の“オペレーション”や「事業価値創造」の“独自性”や“仕組み”は、まさに「裏の競争力(顧客からは見えない領域)」と「モノづくりの組織能力(容易に真似できない領域)」があるがゆえに、成り立っていると筆者は考えている。
「いいものはできたが売れなかった(買ってもらえなかった)」ということ、「価値のあり方」「デジタル特有のモノづくりと製品開発とアーキテクチャ」も同様で、どうやらこの辺りに「価値獲得のためのヒント」が潜んでいそうだ。ここから先と、次回から順を追って、このあたりについてお伝えしていく。
コモディティ化は、なぜ進む?
コモディティ化が進む要因は、製品そのものにある場合や、市場、業界などにある場合など多岐にわたり、「これ」というものを一意的に示すことは困難である。
ただし、B to C市場におけるデジタル家電の類は、その要因とコモディティ化に与える影響はおおよそ判明しており、以下の通りである。
(1)部品のモジュール化
PKG(パッケージ)間のI/F(インタフェース)の標準化・単純化が進み、統合や組み合わせが容易となることから、模倣されやすく企業の新規参入を許しやすい。
(2)中間アセンブリ製品(部品)の市場化
中間財であるモジュール・部品の市場化が進み、調達が容易であること。設計に必要な情報がオープンにされていること。EMS(Electronics Manufacturing Service)やODM(Original Design Manufacturing)の活用により、少ない資本でもメーカーは参入しやすくなる。
(3)顧客価値の頭打ち
従来見られた“機能”や“性能”に対する顧客のこだわりの低下、すなわち、基本機能・性能のみの競争(ある水準以上の機能・性能は必要としない)となり、それ以上の価値を必要としなくなった(企業としては製品差別化がしにくくなった)。
参考までに、(3)をチャート化すると図4の通りである。
これを見て分かるように、顧客ニーズを超える「技術・製品深化(=機能・価値向上)」は意味がなく、コモディティ化が加速し、価格低下も一気に早まる。
この顧客価値の物差しをどこに定めるか、顧客価値の頭打ちギリギリのところを狙えば良いのか・悪いのか、それは結局「横並び」になるのではないかなど、「価値のあり方」を今一度、熟考すべきである。「デジタル特有のモノづくり」も視野に入れつつ、大前提として、顧客価値そのものを、製品を作る側でどこまでコントロールできるか・あるいはできないのか? このような観点で、開発・設計チームがどのように製品に付加価値を加えていけばよいのかを考えることが、製品の成否、ひいては企業としての明暗を分けることになってくる。
次回は、この付加価値について、もう少し深く考えてみたい。
Profile
世古雅人(せこ まさひと)
工学部電子通信工学科を卒業後、1987年に電子計測器メーカーに入社、光通信用電子計測器のハードウェア設計開発に従事する。1988年より2年間、通商産業省(現 経済産業省)管轄の研究機関にて光デバイスの基礎研究に携わり、延べ13年を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者として、開発・技術部門の“現場上がり”の経験や知識を生かしたコンサルティング業務に従事。
2009年5月に株式会社カレンコンサルティングを設立。現場の自主性を重視した「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを提唱。技術評論社より『上流モデリングによる業務改善手法入門』を出版。2012年からEE Times Japanにて『いまどきエンジニアの育て方』『“AI”はどこへ行った?』などのコラムを連載。
一般社団法人TXアントレプレナーパートナーズ(TEP)で技術系ベンチャー企業支援と、厚生労働省「戦略産業雇用創造プロジェクト」の採択自治体である「鳥取県戦略産業雇用創造プロジェクト(CMX)」のボードメンバーとして製造業支援を実施中。
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